採用面接では良い印象を与えるために、過去の経歴や経験を強調したり誇張したりする傾向があるかと思いますが、それが行き過ぎて経歴を偽ってしまうケースがあります。
経歴詐称が発覚したとき、使用者としては懲戒解雇したいと思うことがあるかと思いますが、果たして経歴詐称を理由として懲戒解雇をすることは可能でしょうか?
経歴詐称は懲戒処分の対象となるか?
過去の裁判例では、炭研精工事件(最高裁一小 平成3.9.19判決)などにおいて、経歴詐称は懲戒処分の対象となることが示されており、実際に経歴詐称を理由とした懲戒解雇が認められている事案もあります。しかしながら、あらゆる経歴詐称が懲戒処分の対象となるわけではなく、懲戒解雇などの重大な処分については、「重要な経歴の詐称」でなければならないと解されています。
重要な経歴の詐称とは
<労働能力を誤認させるようなもの>
仕事に必要な資格・経験・能力等が無いのに有るように偽ることは、労働能力の重大な誤認を生じさせることから、重要な経歴の詐称に当たると考えられます。一方で、実務上支障が無い程度の詐称(例えば、経験年数5年と述べていたところ、実際は経験年数が4年しか無かった場合等)は重要な経歴の詐称には該当しないと考えられます。
<賃金を不当に得るもの>
大卒と高卒で賃金額が異なる場合で、大学中退にもかかわらず大卒として経歴を詐称することは不当に大卒の賃金を得ることから、重要な経歴の詐称に該当すると考えられます。
<職務上重要な犯罪歴を隠ぺいするもの>
金銭を扱う経理業務や物品を扱う倉庫業務の募集に対して、過去に窃盗で実刑判決を受けたことを隠ぺいすることは、労働契約の基礎となる信頼関係を著しく損ねる(おそれがある)ことから、重要な経歴の詐称に該当することがあり得ると考えられます。
相当な期間の継続勤務が与える影響
重大な経歴詐称が発覚するのは何も入社して間もなくに限りません。場合によっては入社して5年、10年してから発覚する場合もあるでしょう。
その点、懲戒解雇の相当性を判断するにあたり、長期の継続勤務を重視する判例と重視しない判例が混在しており、見極めが難しいところです。
真面目に勤務しており、能力的にも問題なく、詐称した経歴が従事する業務にあまり影響を与えていない場合には、重大な経歴詐称としない傾向にあるかと思います。
いずれにしましても、経歴詐称を理由として懲戒処分をする場合は、慎重な判断が求められますので、弁護士や社会保険労務士にご相談されることをお勧め致します。