懲戒処分を検討する際に「戒告と譴責は何が違うのですか?」「始末書と顛末書は違いがありますか?」といったご質問を頂くことがあります。これらの言葉を何となく使っていることが多いと思いますので、今回は違いを確認したいと思います。
戒告と譴責の意味
戒告は、将来を戒める処分のことをいい、譴責は、始末書を提出させて将来を戒める処分のことをいうのが通例です。
(実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇 労務行政研究所 編 P.20)
このように、戒告と譴責(けんせきと読みます)の違いは始末書の提出を求めるのか、求めないのかの違いです。しかし、一般企業においては法令で定められた定義ではありません。(公務員については懲戒処分の種類が法令で定められています。)会社によっては戒告または譴責のどちらか片方しか定めていないこともあり、その場合は戒告処分でありながら始末書の提出を求めていたり、譴責でありながら始末書の提出を求めていないものも見受けられます。よって、戒告や譴責の処分を行う場合、自社の就業規則で始末書を求めているのかどうか、必ず確認をしておきましょう。
なお、就業規則がない場合(注)や、就業規則が従業員に周知されていると認められない場合は懲戒処分を行うことはできません。フジ興産事件(最高裁二小 平15.10.10判決)では、『使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する』
そして『就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する』
と判示されています。
注:労働基準法第89条で「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」
とされており、常時10人未満の労働者しか雇用しない場合には就業規則の作成義務を負わないと言うことができます。
(参考)厳重注意と戒告・譴責の違い
戒告・譴責が処罰であるのに対して、厳重注意は教育・指導として行われることが一般的です。処罰することを目的としているのか、教育・指導を目的としているのかによって使い分ければよいでしょう。なお、会社によっては厳重注意を戒告や譴責よりも一段階軽い懲戒処分として定めているような場合もあるようです。
始末書と顛末書の違い
『始末書は自己の非違行為を確認・謝罪し、将来同様の行為をしない旨を制約する文書』
『「顛末書」や「報告書」は非違行為や事件発生の事実関係や経緯について事実を報告させるものであって、行為者の反省や謝罪を求める意味は無い文書』
(労働判例に学ぶ予防的労務管理 岡崎隆彦 著 P.216)
このように、始末書と顛末書は、反省の意思表示を求めているのか、求めていないのかの違いがあります。
なお、始末書についてはその提出を強制することは困難であると考えられています。始末書の提出を求めるということは反省の方法を指示していることになりますが、反省するかどうかは、その者の思想・良心の自由に委ねられることであり、反省することを強制すると人格権侵害の問題が生じ得るからです。一方、顛末書は事実関係を報告させるにすぎませんので、業務命令として提出を求めることが可能です。