スマートウォッチを身に着ける人が徐々に増えていますよね。スマートウォッチは非常に多機能で、運動や健康の記録・管理、電子マネー決済、スマートフォンと連携してのコミュニケーション機能(通話、メールSNS等)、年を追うごとに機能が充実しています。
しかし、これだけ便利になってくるとスマートウォッチを悪用する人も出てくることでしょう。会社としてスマートウォッチの使用を禁止したいと考える場合もあると思いますが、そのような事は可能でしょうか。
基本的には制限できると考えます
従業員は会社と労働契約を交わしているわけですが、労働契約というのは従業員が労務を提供する対価として使用者が賃金を支払うという内容です。そして従業員は自分の気の向くままに労務の提供をすればよいというわけではなく、使用者の指揮命令に従って労務を提供する必要があります。これは職務専念義務と呼ばれており、就業時間中の私的行為は必要最小限でなければなりません。
そうすると、スマートウォッチが私的行為を助長するおそれがある場合は、就業規則等に規定してスマートウォッチの使用を禁止することは可能と思われます。例えば、スマートウォッチは小型で手元に近いですから、仕事中に私的なSNSやメールのやり取りをしても周囲からは分かりにくいため、SNSやメールのやり取りという私的行為を助長するおそれがあると言えるでしょう。
また、現状まだ数は少ないですが、カメラ機能を搭載したスマートウォッチもあります。この場合、スマートウォッチで撮影していてもやはり気が付きにくいため、情報漏洩に使われるおそれがあるでしょう。
これら職務中の私的行為や情報漏洩等の防止を目的としてスマートウォッチの利用や持ち込みを制限することは可能と思われます。
限定的な制限も一考の余地あり
就業中の私的な連絡(SNS、メール等)について、グレイワールドワイド事件(東京地裁 平成15年9月22日判決)やトラストシステム事件(東京地裁 平成19年6月22日判決)では少量の私的メールやチャットは職務専念義務に違反しないか、もしくは職務専念義務に違反するとしても過大視することはできないとしています。
また、情報漏洩については対策のオペレーション(機密情報を扱う場合や機密情報の保管場所に立ち入る際にスマートウォッチを一時的にロッカーへ預ける等)で防止することも可能でしょう。
このように、私的な通信や情報漏洩を殊更に強調してスマートウォッチの使用や持ち込みを全面的に禁止することは、客観的合理性を欠くと判断される可能性があります。それならば、就業中の私的な通信が過剰に行われていることが発覚し、または疑われる場合に限定して使用や持ち込みを禁止できるようにしたり、職場や職種を限定してスマートウォッチの使用や持ち込みを禁止したりするほうが、全面的な利用制限より望ましいのではないでしょうか。