長い人生、常に健康とは限りません。不幸にも病気・怪我などで仕事を休むこともあるでしょう。場合によっては治療に専念するために仕事を辞めることがあるかもしれません。
仕事を休むと大抵は収入が下がります。健康保険には『傷病手当金』という制度があり、病気・怪我で仕事ができない場合に給付を受けることが出来ます。この傷病手当金について基本的な内容を確認したいと思います。
傷病手当金とは?
被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
(健康保険法 第99条第1項)
傷病手当金は、健康保険法でこのように定められています。ちなみに、健康保険法は会社で加入する健康保険であり、市区町村等の窓口で加入手続きをする国民健康保険とは別の制度になります。そして、国民健康保険には原則として傷病手当金がありませんので、注意が必要です。
国民健康保険法上は、傷病手当金の制度が必須となっておらず、任意で傷病手当金の制度を設けることができるとされています(国民健康保険法 第58条第2項)。そのため、一部の国民健康保険組合等で傷病手当金の制度を設けている場合があります。
『療養のため』の範囲は?
入院治療はもちろんのこと、通院治療、自宅療養、退院後の自宅静養等も療養の範囲に含まれます。
『労務に服することが出来ないとき』とは?
<労務不能と認められる例>
- 会社の仕事はできないが、家事をすることはできる期間
- 通院に多大な時間を要するため、事実上働けない期間
- 医師が病後の静養が必要と認めている期間
<労務不能と認められない例>
- 医師の許可を得て半日出勤する場合
- 療養前よりもやや軽い程度の労働をする場合
『労務に服することができなくなった日』とは?
就業時間中に労務不能となった場合・・・その日が労務に服することが出来なくなった日になります
業務終了後に労務不能となった場合・・・その翌日が労務に服することが出来なくなった日になります
『三日を経過』とは?
傷病手当金を受給するためには、労務不能が連続して3日間続いている必要があります。(この3日間を『待機期間』と言います。)
待機期間は会社営業日である必要はなく、土日祝日や会社休日であっても構いません。また、有給休暇で休み賃金が支払われていたとしても、現に労務不能の状態であれば構いません。
(なお、労災保険の休業補償給付や休業給付に3日間の待期期間の要件がありますが、あちらは連続していなくてもよいので、気を付けましょう。)
傷病手当金はいつから支給される?
傷病手当金は3日間の待期期間を経過した4日目から支給されます。なお、会社によっては休んでいる間も賃金が支払われる場合がありますが、賃金の額が傷病手当金の額よりも大きい時は、傷病手当金は支給されません。また、賃金の額が傷病手当金の額よりも小さい場合は、傷病手当金の額と賃金の額の差額が支給されます。(健康保険法 第108条第1項)
なお、傷病手当金は会社を休んだ日だけでなく、土日祝日や会社休日であっても支給対象となります。
傷病手当金の額は?
傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額(被保険者が現に属する保険者等により定められたものに限る。以下この項において同じ。)を平均した額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)の三分の二に相当する金額(その金額に、五十銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。)とする。ただし、同日の属する月以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が十二月に満たない場合にあっては、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額の三分の二に相当する金額(その金額に、五十銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。)とする。
一 傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)
二 傷病手当金の支給を始める日の属する年度の前年度の九月三十日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)
(健康保険法 第99条第2項)
健康保険では保険料の計算を簡便にするために賃金額を50段階に区分した『標準報酬月額』を用います。(標準報酬月額はその人の平均的な一月当たりの賃金額によって決定します。)
そして傷病手当金の一日当たりの金額は次の計算式によって計算した額となります。
直近12ヶ月の標準報酬月額を平均した額÷30×3分の2
標準報酬月額が12ヶ月分ない時は?
入社してから日が浅いなどの理由で標準報酬月額が12ヶ月分ない時は、先程の計算式の『直近12ヶ月の標準報酬月額を平均した額』の部分を、次のうちいずれか低い方の額に置き換えて計算します。
- 直近の連続する各月の標準報酬月額の平均額
- 当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額(2018年5月時点では28万円)
(転職した場合などで)「前の会社で最後に標準報酬月額が記録された月」と「今の会社で最初に標準報酬月額が記録された月」が繋がっている場合(空白の月が無い場合)は、標準報酬月額が12ヶ月分取れるまで、前の会社の標準報酬月額の記録を通算します。
傷病手当金はいつまで受給できるの?
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から
起算して一年六月を超えないものとする。通算して一年六月間とする。
(健康保険法 第99条第4項)
傷病手当金は、支給を開始した日から1年6か月までは支給されます。あくまでも1年6か月は暦の期間であり、1年6ヶ月分の支給を意味していません。
例えば、支給を開始した日が2018年6月1日で、その後、一時体調が回復して2018年8月1日に職場復帰、その後に再度体調が悪化して2019年3月1日から再び傷病手当金が支給されるようになり、2019年11月30日で傷病手当金が終了(1年6か月経過したため)した場合、11ヶ月分しか傷病手当金を受給していませんが2019年12月1日以降は受給することはできません。
(但し、2度目の労務不能になった原因が、1度目の労務不能になった原因とは全く別の原因であった場合は、新規に傷病手当金の支給を開始する扱いになるため、2019年3月1日から2020年8月31日までが新たに傷病手当金の受給可能期間となります。)
令和4年1月1日より、傷病手当金は支給開始日から「通算して1年6ヶ月」まで支給されることに制度変更されました。
従って、傷病手当金の受給開始後に就労するなどして傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6ヶ月を超えても、通算して1年6ヶ月に達するまでは繰り返して受給が可能になります。
なお、経過措置として、令和3年12月31日時点で支給開始日から起算して1年6ヶ月を経過していない傷病手当金(つまり令和2年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金)も改正後の支給期間の対象になります。
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