不幸にも私傷病で働けないときに、生活保障として健康保険には傷病手当金の制度がありますが、職場復帰の見込みが立たずに退職する場合もあります。そのような場合、退職後も傷病手当金を受給することはできるのでしょうか?
退職後の傷病手当金受給は可能?
私傷病で働けないとき、非常に頼りになる傷病手当金ですが、要件を満たしていれば退職後も受給することが可能です。
被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者(第百六条において「一年以上被保険者であった者」という。)であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。
(健康保険法 第104条)
条文をまとめると2つの要件があることが分かります。
- 退職する日まで引き続き1年以上被保険者であったこと
- 退職する日において傷病手当金をすでに受給している(傷病手当金が一時停止されている場合を含む)こと
簡潔にまとめると以上の通りですが、もう少し詳しく見ていきましょう
『引き続き1年以上』は以前の勤務先と通算することができる場合がある
現在の勤務先だけで被保険者期間が1年以上あればそれでよいのですが、現在の勤務先で被保険者期間が1年未満であっても諦めるのはまだ早いです。転職経験があるならば、以前の勤務先の被保険者期間を通算することができる場合があります。通算できる場合とは、『以前の勤務先の被保険者期間と現在の勤務先の被保険者期間との間に1日の空白も無い』場合です。
保険者が異なっても通算できる
『保険者』とは(健康)保険事業の運営主体のことです。がん保険という民間の保険サービスで例えてみるならば、ライフネット生命、オリックス生命、東京海上日動あんしん生命等々、様々な生命保険会社が保険サービスを提供していますが、各生命保険会社がそれぞれ『保険者』にあたります。
少し話が逸れてしまいましたが、被保険者期間の通算は転職の前後で保険者が異なる場合でも通算可能です。例えば以前の勤務先の健康保険が「△△健保組合」で現在の勤務先の健康保険が「協会けんぽ」という場合でも、空白期間が無ければ通算することができます。
被保険者には任意継続被保険者や共済組合の組合員は含まれない
健康保険法第104条の「引き続き1年以上被保険者」の箇所における『被保険者』には任意継続被保険者や共済組合の組合員は含まれません。よって、現在の勤務先に入社する前に任意継続被保険者であった期間や共済組合の組合員であった期間を有していても、被保険者期間として通算することはできません。
<参考>
- 「任意継続被保険者」は二月以上被保険者であった者が資格喪失後に保険者に申し出て、継続して被保険者となった者をいいます(健康保険法 第3条第4項)。
- 国家公務員、地方公務員、私立学校の教職員等に対しては健康保険法の給付を行わないとされており(健康保険 第200条第1項)、健康保険法と同等以上の保険給付を行う共済組合の組合員となっています。
「支給を受けているもの」には支給が一時停止されているものを含む
第2の要件として「被保険者の資格を喪失する時点で傷病手当金の支給を受けている」とされています。法条文には「支給を受けているもの」と記述されていますが、これは、現に支給を受けていなくても支給が一時停止されているものを含むとされています。(昭和27.6.12保文発第3367号)例えば、療養のため労務不能であり、退職日の前日までに待期期間が完成していれば、退職日の時点で傷病手当金が支給されます。しかしながら、退職日を年次有給休暇で休むなどしたために賃金が支払われた場合は、傷病手当金の支給が一時停止されます。このように、傷病手当金の支給要件は満たしており、単に支給が一時停止されているだけであれば、退職後も傷病手当金を受給することが可能です。
退職日周辺の状況には注意してください
先程確認したように、退職後も傷病手当金を受給するためには、「退職日時点で傷病手当金の支給を受けている」か「退職日時点で傷病手当金の支給が一時停止されている」ことが必要です。よって、例えば労務不能の状態となってから3日目が退職日であるような場合は、退職日の時点では傷病手当金が支払われませんので(労務不能となってから4日目以降でないと傷病手当金は支給されない)、退職後に傷病手当金の支給を受けることが出来ません。
また、退職日に出勤して就労可能であるとみなされれば傷病手当金の支給が終了し、それに伴い退職後に傷病手当金の支給を受けられない場合もありますので、注意が必要です。
(保険者の判断によりますが、単に退職の挨拶に出向いただけであれば差し支えないと思われます。)
退職後は傷病再発の場合に傷病手当金を受給できない
傷病手当金の支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。在職中であれば、傷病が回復し職場復帰した後に傷病が再発したような場合であっても、通算して1年6か月の期間内であれば、傷病手当金の支給を再度受けることが可能です。それに対して退職後の傷病手当金の場合は再発が1年6か月の期間内であったとしても、一旦仕事に就くことができる状態になった以後は、再び仕事に就くことができない状態になっても傷病手当金を再度受給することはできません。(令和4年1月13日に下線部加筆)
(全国健康保険協会ホームページより引用)
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