働き方改革関連法で影響が大きいものの1つに、時間外労働に関する規制が新たに設けられたことが挙げられます。施行時期も2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)と法律公布から施行まで日があまりなく、早急に対応を検討する必要があります。
時間外労働規制の概要
改定労働基準法(以下「改定労基法」とします)に次の事項が新たに定められました。
- 時間外及び休日の労働に係る協定(以下「36協定」とします)の記載事項を法定化<第36条第2項 -新設- >
- 時間外労働の限度時間の法定化<第36条第3項・第4項 -新設- >
- 時間外労働の限度時間を超えて例外的に働かせる場合における時間外・休日労働の上限を法定化<第36条第5項・第6項 -新設- >
- 一部の業種や業務について上限規制の適用猶予または適用除外を規定<第36条第11項、附則 第139条~第142条 -いずれも新設- >
時間外及び休日の労働に係る協定(以下「36協定」とします)の記載事項を法定化<第36条第2項 -新設- >
労基法では原則として時間外労働を一切認めておらず、例外的に36協定を締結している場合に限り、協定に定める範囲内において時間外・休日労働が認めらます。これまでは36協定の記載事項を労働基準法施行規則や厚生労働省告示で示していましたが、労基法で直接規定されることになりました。今回規定された内容は次のとおりです。
- 時間外・休日労働をさせることのできる労働者の範囲
- 36協定の対象期間(対象期間は1年に限る)
- どのような場合に時間外・休日労働をさせることができるのか
- 1日、1ヶ月、1年のそれぞれの期間について、時間外・休日労働をさせることができる時間数・休日日数
- 労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省で定める事項
1~4については、実務上の取扱いをこれまでと同様に考えて概ね差し支えありません(注)が、5は今回新たに追加された内容です。
注:4の「1ヶ月」について、告示では「1週間」や「3ヶ月」なども認められていました。「1ヶ月」とは別の期間で定めていた場合は、今後注意が必要です。
(なお、5では「厚生労働省で定める事項」について36協定に定めることとなっていますが、執筆時点(2018年7月31日)ではこの点についてまだ明らかになっておりません。明らかになりましたら、改めて当ホームページにてご案内する予定です。)
時間外労働の限度時間の法定化<第36条第3項・第4項 -新設- >
これまでは厚生労働省告示で時間外労働の限度時間が定められていましたが、労基法第36条第4項で直接規定されることになりました。具体的には次のとおりですが、これまで厚生労働省告示で示されていた基準と変わりありません。
1 年・・・360時間(320時間)
括弧内は1年単位の変形労働時間制を適用する場合の限度時間
なお、第36条第3項では、「労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。」
とされています。
時間外労働の限度時間を超えて例外的に働かせる場合における時間外・休日労働の上限を法定化<第36条第5項・第6項 -新設- >
これまでも、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わざるを得ない特別の事情が生じた場合に限り、36協定に特別条項をあらかじめ定めておくことで、年6回まで限度時間を超えて労働させることができました(厚生労働省告示)。 厚生労働省告示では限度時間を超えて働かせる場合の上限時間は定められていませんでしたが、労基法に直接規定されるのに伴い、限度時間を超えて働かせる場合の上限時間が新たに定められました。
- 1ヶ月100時間未満(休日労働含む)
- 直近2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の各平均がそれぞれ80時間以内(休日労働含む)
- 1年720時間以内(休日労働含まない)
- 限度時間(45時間。1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)を超えることができるのは年6回まで
なお、上記2の「平均80時間以内」という要件については36協定の対象期間内で見ます。よって、例えば2021年4月1日から開始する36協定の場合、2021年3月31日以前の期間に遡って平均を確認する必要はありません。
一部の業種や業務について上限規制の適用猶予または適用除外を規定<第36条第11項、附則 第139条~第142条 -いずれも新設- >
下表のとおり、一部の業種や業務については、時間外労働の上限規制について適用猶予や適用除外が定められています。
建設事業 | 改定労基法の施行から5年間は時間外労働の上限規制を適用せず。 5年経過後も、災害時における復旧・復興事業については、1ヶ月100時間未満・2~6ヶ月の各平均80時間以内の規制は適用せず。 | 改定労基法 附則 第139条 |
自動車運転の業務 | 改定労基法の施行から5年間は時間外労働の上限規制を適用せず。 5年経過後は、1年720時間ではなく1年960時間に要件を緩和して上限規制を適用する。(その他の上限規制に要件緩和なし) | 改定労基法 附則 第140条 |
医師 | 改定労基法の施行から5年間は時間外労働の上限規制を適用せず。 5年経過後は、厚生労働省令で定める上限規制を適用する。 | 改定労基法 附則 第141条 |
砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県) | 改定労基法の施行から5年間は1ヶ月100時間未満、2~6ヶ月の各平均80時間以内の規制は適用しない。 5年経過後は、法定通りの適用となる。 | 改定労基法 附則 第142条 |
新技術・新商品等の研究開発業務 | 時間外労働の上限規制を適用しない。 | 改定労基法 第36条第11項 |
なお、新技術・新商品等の研究開発業務は時間外労働の上限規制を適用を除外されていますが、労働安全衛生法の改正(改定労働安全衛生法 第66条の8の2)により、厚生労働省令で定める時間を超えて働かせた場合には、医師による面接指導を行わなければならないとされています。(本稿執筆時点では「厚生労働省令で定める時間」がいまだ明らかになっておりません。)
対応が求められる具体的な時期は?
改定労基法第36条は、2019年4月1日以降(中小企業は2020年4月1日以降)に開始される36協定から適用されます(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の附則第2条・第3条)。 よって、企業ごとあるいは事業場ごとに改定労基法第36条が適用される時期が異なることになりますから、現在締結している36協定を確認の上、自社で具体的にいつから改定労基法第36条が適用されることになるのか、しっかり確認をしておきましょう。
罰則について(2018年8月3日 追記)
改正労基法第36条第6項(月100時間未満、2~6ヶ月の各平均80時間以内)に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められています。(改定労基法 第119条第1項第1号)