はじめに:年次有給休暇の「暦日取得」とは?
年次有給休暇(以下「年休」とします。)は、労働者の心身の疲労回復や生活のゆとりを目的として、労働基準法第39条により定められた制度です。その取得単位については、原則として「暦日(午前0時〜午後12時)」での1日単位が基本とされています。
しかし、実務では「前日から継続して翌日の深夜まで残業した場合、翌日の年休は認められるのか?」といった疑問が生じることも少なくありません。
前提条件の整理:年休の取得単位と法的根拠
1. 年休の取得単位
- 原則:1日単位(暦日)
- 例外:半日単位(労働者の希望+使用者の同意)や時間単位(年5日を限度、労使協定が必要)
(参考:労働基準法第39条、厚生労働省通達(昭63 基発1号)、厚生労働省「年次有給休暇制度について」)
2. 暦日取得の根拠
労働基準法コンメンタールでは、「労働日」は原則として暦日計算によるべきとされており、深夜勤務が翌日午前2時まで及んだ場合、その翌日に年休を与えても「暦日単位の休息が確保されていない」として、年休を与えたことにはならないとされています。
実務上の論点:どうすればよいか?
ケーススタディ:前日深夜2時まで勤務 → 翌日が年休予定
- 対応策:
- 半日年休として処理(制度がある場合)
- 年休を取り消して、特別休暇として対応
- そもそも残業が日付をまたがないようにできれば、それがベスト
※労使合意で1日分の年休を与えたとみなすことも考えられますが、労働基準監督署から違法と指摘されるリスクが残るため、お勧めは難しいです。
実務対応のポイント
- 就業規則の整備
- 年休の取得単位の明確化(1日分は暦日単位であることを明確に)
- 深夜勤務が日を跨ぐときの年休取得に関するルールの明文化
- 労使間の合意形成(就業規則にも規定)
- 半日年休や時間単位年休の導入
- 特別休暇制度の導入や見直し
まとめ:暦日取得の原則を踏まえた柔軟な運用を
年次有給休暇は原則として暦日単位での取得が求められており、実務では半日年休や特別休暇に振り返るなどの柔軟な対応が必要になることもあります。法令・通達・判例を踏まえつつ、何より従業員に不利益を与えない運用を心がけることが、従業員からの信頼性向上にもつながります。
※本記事は2025年10月時点の法令・通達に基づいて作成しています。最新情報は厚生労働省の公式サイト等をご確認ください。
