昔に導入した手当が今となっては誰にも支給されていない、といったことはございませんでしょうか?
例えば、ある企業では21時以降も残業をする場合には「夜食手当」を支払っていました。しかし、最近では残業削減活動の成果も上がって21時以降に残業するようなことが無くなりました。
その上、夜食手当は正社員だけを対象としていたところ、2021年4月からは中小企業でもいわゆる同一労働同一賃金に適合させることが必要になったため、この機に夜食手当を廃止する案が出されました。
しかし、最近では夜食手当の支給実績が無いといっても、将来に向かって21時以降の残業が発生する可能性はゼロではなく、そうすると夜食手当の廃止は不利益変更になるのではないか、と心配する声も上がりました。
果たして夜食手当の廃止は不利益変更に該当するのでしょうか?また、不利益変更に該当する場合はどのような点に注意が必要でしょうか?
不利益変更か否か
この事案の場合、確かに現状では支給実績がありませんが、将来的に夜食手当の支給はあり得ると考えられます。そうすると、労働者にとっては今後の夜食手当を受ける権利を失うことになりますので、不利益変更に該当すると考えられます。(但し、21時以降の残業が発生したとしても稀であると思われるため、小さな不利益であると言えるでしょう。)
不利益変更に該当する場合の進め方
不利益変更にあたる場合、①労働者の個別の同意を得て手当を廃止する(労働契約法第9条)か、②就業規則の合理的な変更として手当を廃止する(労働契約法第10条)かの、いずれかの方法になります。
<労働者の個別の同意を得て手当を廃止する場合の注意点>
①の労働者の個別の同意を得て廃止する場合の注意点として、必ず就業規則の変更も併せて行うようにしましょう。
労働契約法第12条では、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。」と定められています。
就業規則の改定をさぼった場合は、就業規則に依然として夜食手当を支払う旨が定められており、夜食手当を廃止するという個別に合意した労働条件が就業規則の基準を下回り無効となってしまいます。
また、近年では個別の同意についても真に同意したものであるか否かが問われるようになっています。従って、圧力をかけて同意のサインをさせるようなことは厳に慎むのはもちろんのこと、手当の廃止によって生じる不利益について丁寧に説明するなどの対応(不利益の程度が大きい場合には、手当廃止の代償措置を取ることを推奨)を心がけましょう。
<就業規則の合理的な変更として手当を廃止する場合の注意点>
もう1つの方法である②の就業規則の合理的な変更として手当を廃止する方法ですが、労働契約法第10条では「就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」には有効とされています。
合理性の判断要素は色々と挙げられているものの、どれも抽象的な表現となっていることにお気づきかと思います。これはつまり、個別の事案ごとに各判断要素を丁寧に分析して合理性を判断せざるを得ないということであり、合理性が認められるか否かの予測は非常に難しいと言えます。
就業規則の変更に合理性が認められない場合は、就業規則の変更が無効(本事案では夜食手当の廃止が無効)となってしまいます。そのため、可能な限り①の労働者の個別の同意を得て廃止する方法を併用することで手当の廃止が無効となるリスクを低減することをお勧めします。
まとめ
不利益変更に該当するか否かは、現在の不利益だけでなく将来の不利益も考慮する必要があります。
そして、不利益変更に該当する場合には2種類の変更方法が考えられますが、どちらの方法を取るにしても、結局のところ両方の対応をしておくべきという結論に至ります。
本事案では、不利益変更ではあっても小さな不利益であると考えられます。
従って、夜食手当廃止の経緯や必要性をきちんと説明することで個別の同意を得ることは可能と思われ、併せて就業規則の改定を実施することで、問題なく夜食手当を廃止することが可能であると考えます。