従業員の結婚や病気・死亡時に慶弔見舞金を支給している場合や、中には従業員間の交流促進を目的として飲み会の補助金を支給していることもあるかと思いますが、業績悪化時にそれらの減額や廃止をして問題ないでしょうか?
これらについて、任意・恩恵的なもの、福利厚生、又は企業設備の一環と考えられる場合には減額や廃止をしても特に問題は生じませんが、賃金とみなされる場合や就業規則の変更を要する場合には不利益変更の問題が生じます。
慶弔見舞金について
まず慶弔見舞金ですが、通達(昭22 9.13 基発17)によれば、原則として任意・恩恵的なものであって賃金とはみなさないとされているものの、「労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件の明確なものはこの限りでない」とされています。
よって、慶弔事や見舞事が発生する都度、慶弔見舞金の支給の有無や金額を判断して支給している場合には福利厚生と考えられますが、就業規則等に規定されて画一的に支給がなされているような場合には賃金に該当することとなり、減額や廃止をするのであれば不利益変更の問題が生じることとなります。
飲み会の補助金について
次に飲み会の補助金ですが、これについては福利厚生は又は企業設備の一環(ここでいう企業設備とは、企業が経営体として労働者から労務を受領するため、当然具備しておかなければならない有形、無形のすべての設備を指し、実費弁償的な出張旅費や、過去の平均額等の根拠に基づき役職員に定額で支給される交際費など)と考えられるため、賃金には該当しないものと思われます。
ところで、就業規則に定めなければならない事項として、労働基準法第89条第1項第10号には、「当該事業場の労働者のすべてに適用される定め」が定められており、飲み会の補助金が全ての従業員を対象としている場合には就業規則への規定が必要になると考えらます。
そして、就業規則へ規定していれば減額・廃止するにあたり就業規則の変更を要することとなり、その場合には労働契約法第9条・第10条により不利益な内容へ変更をする必要性や合理性が問われることとなります。
従って、飲み会の補助金が役職者に対してのみ支給されているようなものであれば企業設備の一環として就業規則への記載を要せず、不利益変更の問題は生じないと考えます。一方で、従業員であれば誰でも支給され得るようなものであれば就業規則への規定を要することになり、減額・廃止をする場合には不利益変更の問題が生じます。
不利益変更となる場合に必要なことは?
不利益変更の問題が生じる場合、先ほど触れたように不利益変更の必要性や合理性を検討する必要があります。
慶弔見舞金や飲み会の補助金程度であれば、その金額や支払われる頻度から考えて高度な必要性や合理性は求められないと考えられますが、何も考えなくてよいものではありません。
必要性や合理性に関しては個々の事案により判断が異なり、ここで言及することは困難ですが、減額・廃止を実行する前にまずは社労士や弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
参考書籍:労政時報 第4002号