2010年の労働基準法改正で60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられましたが、中小企業は適用が猶予されていました。
しかし、その適用猶予も2023年3月31日で終了し、2023年4月1日からは60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増率で計算した割増賃金の支払いが必要になります。就業規則の変更や労使協定の締結など、適用までに準備しておきたいことを解説します。
60時間以上の時間外労働に対し割増賃金率が50%に引き上げ
使用者が従業員に法定労働時間を超える時間外労働や深夜労働、休日労働などをさせた場合は、労働基準法に基づき、割増金額を支払う必要があります。
2010年の労働法改正までは一律25%(以上)だった時間外労働の割増率ですが、この時に大企業に対しては1カ月60時間を超えた時間分の割増率が50%(以上)に引き上げられました。そして、2023年4月からは中小企業もこの適用を受けることになります。漫然と長時間労働をさせていると、これまで以上の人的コストが発生することになりますので、必要最小限の時間外労働で収まるように業務改革を進めるべきでしょう。
なお、60時間以下の時間外労働についてはこれまでと変わらず25%以上の割増率で構いません。あくまでも60時間を超えてからのみ50%以上の割増率とすることが必要です。
ちなみに、法定休日の労働時間は時間外労働時間とは分けて考えます。例えば、時間外労働50時間と法定休日労働20時間が行われた場合は「50時間+20時間」とはしません。時間外労働はあくまでも50時間しか行われていないと考えます。
50%以上の割増賃金の代わりに代替休暇を付与する制度もありますが…
月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払う代わりに、有給の代替休暇を付与することも認められています。ただし、代替休暇を取得するかどうかは対象労働者の判断に委ねられますので、強制的に代替休暇とすることはできません。
また、代替休暇を与えた場合でも割増賃金の支払いが不要になるわけではなく、60時間を超える時間外労働に対して50%以上ではなく25%以上の割増賃金を支払えば済むということにすぎません。
代替休暇は2か月以内に取得する必要があります(期限内に取得できなかった場合は追加の割増賃金支払いが必要になります)。恒常的に時間外労働が発生している場合は代替休暇を取る暇も無いということがあり得るところであり、代替休暇の取得は対象労働者の判断に委ねられることと合わせて、代替休暇の制度を導入しても上手く機能しない場合があるでしょう。
4月までに準備しておきたいこと
割増賃金率の引き上げにともない、準備しておきたいのは就業規則の変更です。就業規則には賃金の計算方法を定めることが必要なため(労働基準法第89条)、月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増率で計算することを定める必要があります。(なお、常時10人以上を使用する事業場では所轄労働基準監督署へ就業規則の変更を届け出る必要があります。)また、労働条件通知書や雇用契約書に記載する割増率についても変更しておきましょう。
より実務的なところでは、勤怠システムで60時間を超える時間外労働を分けて集計できるように設定したり、給与システムで60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増率で計算できるように設定したり、給与明細や賃金台帳の表示を対応させたりが必要でしょう。
代替休暇制度を導入するのであれば、代替休暇の時間数の算定方法や取得日の決定方法、代替休暇の単位や代替休暇を与えることができる期間、割増賃金の支払日などを定めた労使協定の締結が必要ですし、これらの項目を就業規則に記載することも必要です。