労働基準法第15条第1項では「労働者を採用して雇用する際に企業側は労働条件を明示しなければならない」と規定されており、労働条件は原則的に書面で交付することとされています。この労働条件を記した書面のことを「労働条件通知書」と呼びます。今回は、労働条件通知書について解説します。
書面での明示が必要な労働条件とは
正社員だけでなくアルバイト等、全ての労働者に対して労働条件を書面等で通知する必要があります。労働基準法によって書面での明示が定められている労働条件は次のとおりです。
- 契約期間(有期契約の場合は契約の更新基準を含む)
- 就業場所
- 従事する業務
- 始業・終業時刻(交代制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項を含む)
- 所定外労働の有無
- 休憩
- 休日
- 休暇
- 賃金の決定方法・計算方法・支払時期・支払方法
- 昇給
- 退職・解雇
また、以下の事項について就業規則等で定めている場合は、これらも書面等で通知する必要があります。
- 退職金の決定方法・計算方法・支払時期・支払方法
- 賞与
- 安全衛生
- 職業訓練
- 災害補償・私傷病扶助
- 表彰
- 制裁
- 休職
基本的には、雇入れの際に労働条件通知書を渡すことになりますが、書式に決まりはなく、必要事項が記載されていれば構いません。なお、厚生労働省ホームページで労働条件通知書のモデル様式が公開されており、参考にすることができます。
労働条件通知書はメールやSNSでの交付も可能に
労働条件通知書について、従来は「書面」による交付に限られていましたが、現在ではFAXや電子メール、LINEやメッセンジャーなどでの交付も可能になっています(労働者が希望する場合に限られます。)。なお、メールやSNSにPDFを送付する形も可能です。
労働者が書面交付を希望することもあるでしょうから、Word等で書式を作成しておき、書面交付希望の有無によって、書式の印刷またはPDF送付を使い分ける運用が現実的かもしれません。
雇用契約書で労働条件通知書の代替も可能
雇入れの際に雇用契約書を作成している場合が多いかと思います。雇用契約書と労働条件通知書をそれぞれ作成しても構いませんが、雇用契約書に書面等での明示が必要な事項を全て記載すれば、労働条件通知書の作成を省略しても差し支えありません。労働条件通知書は一方的な通知にすぎませんので、どちらかの作成を省略するのであれば、労働条件通知書を省略して雇用契約書を作成するべきでしょう。(雇用契約書を電子契約化すると前述のメール等で交付可能になったことと上手く連動するのですが、2022年5月現在では電子契約サービスの利用金額がネックかもしれません。)
雇用契約書や労働条件通知書をこれから初めて作成する場合、作成自体がとても面倒に思うかもしれません。しかし、書面等で労働条件を明示しておくと、後になって「言った・言わない」のトラブルを防ぐことができ、使用者側にとっても大変メリットがあります。
また、労働条件を書面等で明示しようと作業を開始すると、「あれ?この条件って変だな?」「少しややこしい条件だけど、どのように伝えれば誤解なく伝わるかな?」など、きっと新たな疑問や気付きを得ると思います。これらをしっかり考えて対応することで、自社の制度がより一層磨き上げられることにない、労使双方が安心できる働きやすい職場に近づくこと間違いなしですから、是非チャレンジしてみましょう。