就業規則の見直しをさせて頂くと「有期労働契約の更新は60歳に達する月の末日までを上限とする。」といった規定を置いているのを見かけることがありますが、このような年齢による更新上限を定める規定の是非について検討してみます。
高年齢者雇用安定法や労働契約法との関係
高年齢者雇用安定法第8条では、60歳未満の定年年齢を定めることを禁止しています。また、同法第9条では、65歳未満の定年年齢を定めた場合は、高年齢者雇用確保措置として「定年年齢の引き上げ」「定年の廃止」「65歳までの継続雇用制度の導入」を求めています。
定年制度とは、無期労働契約についてある一定の年齢に到達することをもって契約関係を終了させる制度と考えられるところ、有期労働契約に年齢による更新上限を定めることが、直ちに高年齢者雇用安定法違反には該当しないと考えられるます。
また、労働契約法において年齢による更新上限を制限する規定が無いことから、就業規則に契約更新の上限年齢を定めること自体は可能と思われます。
有期労働契約の本来的な趣旨と契約更新の期待権
有期労働契約は本来、一時的・短期的に必要な労働力として、又は季節の繁忙に対応する労働力として、あるいは期間が明確なプロジェクト等の要員として等、雇用の調整弁として期待されているところがあるかと思います。
しかしながら、日立メディコ事件(最高裁一小 昭和61年12月4日判決)では、2か月の有期契約を5回更新した後に雇止めした事例について、その雇用関係にはある程度の継続が期待されるという「期待権」を認めたうえで、解雇権乱用法理の類推適用という考え方を採用して雇止めを否定しました。最高裁が示したこの考え方は、後に労働契約法19条第2項として法制化されています。
ここで契約更新の上限年齢に話を戻すと、契約更新の上限年齢を定めることで、その年齢までは契約が更新されるという「期待権」が認められるおそれがあり、雇用の調整弁としての期待と相反する結果になりかねません。
無期転換権との関係
平成25年4月からは労働契約法18条の無期転換権が適用されるようになりました。これは、有期労働契約を通算した期間が5年を超える場合には、労働者の求めに応じて無期労働契約に転換させなければならないというものです。
無期転換後は有期労働契約ではなくなるので、有期労働契約の更新上限は関係がなくなります。比較的簡単に無期転換ができることを考えると、有期労働契約の更新上限を年齢で定める意義は極めて小さいと言えるでしょう。
まとめ
以上の考察より、有期労働契約について年齢による更新上限を定めること自体は可能と考えられるものの、契約更新の期待権発生による雇用の調整弁としての機能が失われるリスクは無視できません。
無期転換権が労働契約法に定められたことにより、更新上限を年齢で定めるメリットが極めて小さくなったことを考えると、年齢による更新上限はメリットをデメリットが上回ると考えます。