午前中は自宅でテレワーク、午後からは会社に出勤して仕事を予定していた場合で、自宅から会社への移動中に転倒して怪我をした場合は、業務災害なのでしょうか?あるいは通勤災害なのでしょうか?
業務災害の可能性
業務災害となるのは、業務起因性と業務遂行性が認められる場合です。業務起因性とは業務と傷病の間に相当因果関係が認められることを言いますが、平たく言うと業務が原因で傷病が発生したということです。
業務起因性が認められるためには、その前提として業務遂行性が認められる必要があります。業務遂行性とは、労働契約に基づき使用者の支配下にあることですが、具体的には次の3パターンがあります。
- 使用者の支配管理下(事務所や工場の中)で業務に従事している場合
- 使用者の支配管理下(事務所や工場の中)にあるが、休憩等で業務に従事していない場合(※)
- 使用者の支配下にはあるが、管理下を離れて(客先を巡回する場合等)業務に従事している場合
※休憩中の災害は原則として業務遂行性が認められず、例外的に事業場施設の欠陥などが原因である場合等に限り業務遂行性が認められます。
テレワーク後の自宅から会社までの移動は、上記3に該当する可能性があり、この場合は業務災害になると考えられます。しかしながら、通勤災害に該当する可能性はないのでしょうか?以下、さらに考察を続けます。
通勤とは
労災保険においては、次の3つが通勤にあたるとされています。
- 住居と就業場所との間の往復
- 就業場所から他の就業場所への移動(例えば、出張先で1泊し、その翌日に行われる出張先から会社への移動等)
- 1の往復に先行し又は後続する住居間の移動(例えば、単身赴任先と家族のいる自宅間の移動等)
テレワーク後の自宅から会社までの移動は上記1や上記2に該当するようにも思いますが、自宅から会社までの移動に業務遂行性が認められるか否かが問題になります。
この点、「昼休み等就業の時間の間に相当の間隔があって帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられる」とした通達(昭48年11月22日 基発644号)があり、さらに「就業場所間の移動(筆者注:テレワーク後の自宅から会社への移動)について、労働者による自由利用が保証されている時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられる。」とした通達(令和3年3月25日 基発0325第2号)があります。
また、同通達(令和3年3月25日 基発0325第2号)では「テレワーク中の労働者に対して、使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当する。」とも示しており、これらを総合すると、テレワーク後の自宅から会社間への移動に相当の時間的余裕があり、労働者による自由利用が可能な場合には、通勤災害となる余地があると考えます。逆に自宅から会社までの移動に時間の余裕が無い(ほとんど移動するだけの時間しかない)場合は業務としての移動と捉えて業務災害になると考えます。
最終的には個別事案ごとの判断が必要
自宅でテレワーク後に会社へ移動する途中の怪我に関して、業務災害と通勤災害の境界線は「移動に関する時間的余裕の有無」と「自由利用の可否」という結論に至りましたが、最終的には個別の事案ごとの判断が必要です。
例えば、時間的余裕や自由利用の程度については何分以上の余裕といった具体的な基準ではないため、個別の事案ごとに判断が必要になります。また、移動中の中断行為(移動途中で昼食を取る、コンビニに寄る、散髪する等)の有無によっては、そもそも業務災害にも通勤災害にも該当しないということもあり得ますので、注意が必要です。