2023年10月に最低賃金が改定される予定です。今回は過去最大の引き上げ幅ということもあって、例年よりも答申等のスケジュールが遅れましたが、近畿2府4県については以下の通りとなる予定です。(最低賃金引き上げ時の注意点について、当社ホームページの過去記事をご確認ください。)
最低賃金改定(予定)
府県名 | 新 | 旧 | 改定日 |
---|---|---|---|
滋賀県 | 967 | 927 | 10月1日 |
京都府 | 1008 | 968 | 10月6日 |
大阪府 | 1064 | 1023 | 10月1日 |
兵庫県 | 1001 | 960 | 10月1日 |
奈良県 | 936 | 896 | 10月1日 |
和歌山県 | 929 | 889 | 10月1日 |
今回の改定で最低賃金の全国加重平均が初めて1,000円を超えました。今回は各府県とも40円以上の上昇ということで、多くの経営者様が対応に頭を悩ませている状況です。そのような中で、2030年代半ばまでに最低賃金の全国(加重)平均を1,500円まで引き上げると岸田総理が表明したそうです。
単純に考えると今後10年以上、毎年40円~50円程度の最低賃金引き上げを考えているのでしょう。その是非はともかくとして、最低賃金の引き上げが何故必要なのかという部分に関して政府からの発信が全くと言っていいほど無いのが気がかりです。
※これ以降は完全に筆者の個人的見解となります。
賃金上昇で必ずしも生活が豊かになるわけではない
政府発信ではありませんが、巷間でよく耳にする論調として、諸外国は日本より賃金が高い、賃金が低い日本は貧しい、といったものがあります。果たしてそうなのでしょうか?
アメリカが賃金の高い国の例として取り上げられることが多いので、アメリカと日本で簡単な比較をしてみたいと思います。
<賃金>
- アメリカの平均賃金(2022年) 77463ドル
- 日本の平均賃金(2022年) 41509ドル
※いずれもOECD公表資料参照
確かにアメリカの平均賃金は日本の1.86倍以上となっており、アメリカの方が日本よりも賃金が高いことが分かります。それでは物価はどうでしょうか?分かりやすいところで家賃相場を比較してみたいと思います。
<家賃相場 1LDK >
- ニューヨーク(マンハッタン ミッドタウン・イースト) 3700ドル~5500ドル(日本円で536,500円~797,500円 1ドル145円計算 エイブルホームページ参照)
- 東京(新宿) 18.5万円(スーモホームページ参照)
※ミッドタウン・イーストはグランドセントラル駅に近く、グランドセントラル駅と性質が近いのは新宿駅ということで比較対象としています。
家具付き賃貸はニューヨークでも稀なようなので、ニューヨークの家賃相場は単純に東京の3倍以上と考えてよいでしょう。これでは、賃金が高かれば豊かであるとは必ずしも言えません。
実際に、アメリカの19歳以上の約40%が金銭的な不安を感じ、58%が生活クオリティーの低下を感じているようです。(ビズリーチホームページ参照)
世界的なインフレに取り残されないために必要なのか
世界的な物価上昇及び円安の影響で日本に入ってくる物・サービスの価格が上昇し、それによって日本国内の物価も引きずられる形で物価が上昇しています。
確かに物価上昇局面で賃金の底上げを図るというのは必要なことだと理解します。しかし、それだけでは不十分なことは明らかです。
大企業はともかくとして、中小零細企業では物価高騰や賃金上昇によるコスト増加分を十分に価格転嫁できていないどころか、全く価格転嫁できていないような場合もあるのではないでしょうか。
ここで大きく立ちはだかるのが、価格転嫁が容易でない日本の商習慣です。それこそ長年にわたって培われてきたものですから、流れに任せて価格転嫁が容易になることは無いでしょう。やはりここは、最低賃金を政策でどんどん引き上げているように、価格転嫁が困難な商習慣を打ち破る政策の導入が必要なのではないでしょうか。
生活が豊かになるために根本的に必要なこと
生活が豊かになるためには、賃金の伸びが物価の伸びを上回る必要があります。それを実現させるためには、企業や団体が利益を稼がなければなりません。賃金というものは、結局のところ経済活動によって得た利益の一部でしかないのですから、経済活動によって得る利益が大きくならない限りは賃金上昇にも限りがあるのは自明の理です。
日本ではバブル経済崩壊後、失われた20年とも30年とも言われていますが、筆者の個人的な見解としては、企業が抜本的な改革を行い難いことが原因の一つだと考えます。
直近では、アメリカのX社(旧ツイッター社)が大幅な人員削減を伴う大規模な構造改革を実施中です。(最終的に成功となるかどうかは現時点で分かりませんが。)その他にも、アメリカでは不況期に大規模なレイオフが行われることは珍しくありません。
確かに大規模な構造改革には相当な痛みが伴うものですが、大きく羽ばたくためには一度しっかりとしゃがみ込んで力を溜める必要があります。しかしながら日本の場合、大胆な構造改革を行うには雇用維持の負担が重く、一旦しゃがみ込むことが容易には許されません。また、不況期についても雇用維持や賃金維持の負担が重く、あまりの重さにしゃがみこんでしまうものの、力を溜めるためのしゃがみ込みではないため、そこから羽ばたく力を養うことは容易ではありません。
日本では雇用保険制度という素晴らしい制度があるのですから、雇用保険制度を今よりも拡充するとともに、企業の構造改革に伴う解雇制限の緩和や、不況期の人員整理・一時的な賃下げなどが今よりも容易にできるような法改正を筆者個人としては希望する次第です。