コロナ禍の影響で経営合理化のために複数の店舗や事業所を一か所に統合するケースが増えているかと思います。場合によっては統合後の店舗や事業所への通勤が困難で退職する従業員が出てくるかもしれません。
この場合、雇用保険の給付はどうなるのでしょうか?
特定受給資格者と特定理由離職者
65歳未満の雇用保険被保険者が離職し、一定の受給要件を満たす場合には「基本手当」を受給することができます。
そして、離職理由によっては「特定受給資格者」や「特定理由離職者」となることがあり、その場合には、受給要件が緩和されたり、基本手当の給付日数が手厚くなったり、受給制限期間が適用されなかったりします。
それでは、店舗統合による移転のため通勤困難で退職する場合は、特定受給資格者や特定理由離職者に該当するのでしょうか?
<特定受給資格者の範囲>
まず、特定受給資格者の範囲を確認しますと、「事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者」がその範囲に含まれていますが、「移転について事業主より通知され(事業所移転の1年前以降の通知に限る)、事業所移転直後(概ね3か月以内)までに離職した場合が当該基準に該当する」という条件付きです。
<特定理由離職者の範囲>
次に、特定理由離職者の範囲を確認しますと、「次の理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者」とされており、「次の理由」の中には「事業所の通勤困難な地への移転」が定められていることから、特定理由離職者にも該当しそうです。
ところで、特定理由離職者は「特定受給資格者に該当する者以外」とされていますので、そうすると、「移転について事業主より通知され(事業所移転の1年前以降の通知に限る)、事業所移転直後(概ね3か月以内)までに離職した場合」であれば、特定受給資格者に該当し、それ以外の場合では特定理由離職者に該当することになります。
<補足 通勤困難の基準>
通勤困難に関する基準は特定受給資格者・特定理由離職者のどちらも共通となっており、下記のいずれかに該当する場合は通勤困難とみなされます。(これらの条件に当てはまるか微妙な場合には、ハローワークへ事前に確認しておくことをお勧めします。)
- 通常の交通機関を利用し、または自動車、自転車を用いる等通常の方法により通勤するための往復所要時間(乗り継ぎ時間を含む)が概ね4時間以上であること
- 利用交通機関の時間帯の便が悪く、通勤に著しい障害を与えること
受給要件の緩和
単なる自己都合退職の場合、基本手当の受給資格を得るには、原則として、離職前2年間に被保険者期間(賃金支払基礎日数が11日以上あるか、賃金支払いの基礎となる時間が80時間以上ある月に限る)が12ヶ月以上あることが必要です。
しかし、特定受給資格者や特定理由離職者に該当する場合は、原則として、離職前1年間に被保険者期間が6ヶ月以上あれば受給資格を得ることができます。
給付日数の増加
単なる自己都合退職の場合、基本手当の給付日数は次のとおりです。
一方、特定受給資格者の場合、基本手当の給付日数は次のとおりです。
<特定理由離職者も給付日数が手厚くなる?>
大きく分けると特定理由離職者には2種類あります。
- 労働者の意思に反して有期労働契約が更新されなかった場合(いわゆる雇止め)
- それ以外の場合
前者については特定受給離職者と同じ給付日数が適用されますが、後者については給付日数の増加はありません。従って、店舗や事業所の移転による通勤困難の理由で特定理由離職者となる場合には、給付日数の増加はありません。
<注意 新型コロナが関係する場合>
新型コロナの影響により離職を余儀なくされた特定受給資格者については、給付日数が最大60日延長される特例が設けられています。
従って、店舗の統廃合が新型コロナの影響によるものであれば、上記特例の適用を受けられる可能性があります。事案ごとの判断になるため、詳しくは管轄のハローワークへお問い合わせください。
受給制限期間の適用除外
単なる自己都合退職の場合は、7日間の待期期間と2か月間の受給制限期間が過ぎてからでなければ基本手当を受給できません。
一方で、特定受給資格者や特定理由離職者には受給制限期間が適用されませんので、待期期間の7日間が過ぎれば基本手当の受給が可能となります。