社会保険(健康保険・厚生年金保険)では所謂「年収の壁」が言われており、年収106万(正確には月額8万8千円)円や年収130万円が有名です。
これら年収の壁の影響を受けるのは主にパートタイマー・アルバイトですが、近年の急激な最低賃金上昇もあって、年収調整のために労働時間を短縮するケースがあります。これは随分と前から指摘されていたことですが、国もようやく課題として認識することとなり、取り敢えずの対策として「年収の壁・支援強化パッケージ」が発表されました。(本格的な対策は、今後改めて議論していく方向です。)
今回は、106万円の壁への対策として新たに設けられたキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の簡単な概要と、これだけは知っておいてもらいたい注意点をご紹介します。
概要
<手当支給メニュー>
新たに社会保険に加入することにより生じる保険料負担(本人負担分)に相当する手当等の支給が条件となります。
<労働時間延長メニュー>
所定労働時間を延長することで新たに社会保険に加入すること(延長した所定労働時間数によっては、併せて賃金の増額も必要)が条件となります。
これだけは知っておいてもらいたい注意点
<被保険者数100人以下の場合はメリットが少ない>
本助成金は主に106万円の壁への対策として新たに設けられたものです。2023年11月現在において、企業規模が被保険者数100人以下の場合、106万円の壁は原則として、関係ありません。従って、被保険者数100人以下の場合は本助成金のメリットはあまり無いと言えます。
一応、被保険者数100人以下であっても、通常の社会保険加入(週の所定労働時間及び月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上)に対して賃金の15%以上の手当等を支給することで、本助成金の活用は可能です。しかし、本助成金は106万円の壁を想定して助成額が設定されているため、通常の社会保険加入のケースでは助成額が物足りないこととなります。
被保険者数100人以下であっても、任意特定適用事業所となることで短時間のパートタイマー・アルバイトを社会保険に加入させることは可能です。従って、その場合は年収106万円の壁を想定した本助成金を活用するメリットが出てきますが、わざわざ本助成金の為に任意特定適用事業所となる必要は無いと言えるでしょう。
<助成金の対象となる労働者が限定的>
本助成金は、原則として、2023年9月以前に社会保険に加入させた労働者は対象となりません。だからと言って、2023年10月以降に社保加入させた者には手当等を支払い、2023年9月以前に社保加入させた者には手当等を支払わないとなれば、手当等が支払われない者の不満に繋がることが十分に考えられるため、慎重な判断が必要です。
<会社負担分の保険料は助成されない>
本助成金は、労働者の本人負担分の保険料を基準に助成額が決定されています。会社負担分の保険料は助成の対象外ですので、注意が必要です。