契約自由の原則(民法521条)により雇用契約の内容は本来自由に定められるところ、労働者保護の観点から労働基準法等により契約自由の原則を一部修正し、雇用契約に定めることが禁止されている事項が存在します。今回は、それらの中でも見逃されがちな禁止事項をご紹介します。
3年を超える有期雇用契約は原則禁止
そもそも3年を超える有期雇用契約を検討すること自体が稀とは思いますが(しかし現実にご相談を頂くことはあります。)、原則として3年を超える有期雇用契約を締結することは禁止されています。(労働基準法第14条)
戦前は長期契約で身分的拘束をかけて強制的に労働させるなどの弊害が見られたため、その反省から雇用契約期間の上限制限をすることになったものです。
なお、例外的に次の場合には3年を超える有期雇用契約を締結することが認められています。(下記2及び3の場合については上限5年まで。)
- 一定の事業の完了に必要な期間を定める場合(例えば3年を超える公共工事事業に従事する場合に、その工事完了までを雇用契約期間とする場合など)
- 厚生労働大臣が定める基準に該当する高度な専門的知識、技術又は経験等を有する者(例えば医師、弁護士など)と有期雇用契約を締結する場合
- 満60歳以上の者と有期雇用契約を締結する場合
賠償額予定の禁止
戦前は労働者が帰郷したり転職したりする場合に一定額の違約金を支払う約定や、労働者の不法行為等に対して損害賠償額を予定する約定によって、労働者の足止めや身分的従属の発生が問題視されていたことから、「労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められました。(労働基準法第16条)
たとえば、『1年未満で退職した場合には違約金として会社に200万円を支払う』『自動車をぶつけた場合には罰金30万円を支払う』などの条件を盛り込むことは禁止されています。
賠償額予定の禁止に抵触するおそれのあるのが修学費用の返還制度です。貸与する形で修学の費用を使用者が支払い、一定期間以上の勤務があればその返済を免除する制度を設けることがあり、その制度の趣旨や詳細如何によって有効と判断された裁判例、無効と判断された裁判例のいずれもあるため、そのような制度を設ける際は注意が必要です。
なお、違約金や損害賠償の金額をあらかじめ定めることは禁止されているものの、労働者の故意・過失の程度に応じた損害賠償を請求することは可能です。
前借金(ぜんしゃくきん)相殺の禁止
これも戦前の話ですが、親に金銭を貸し付け、親は子供を働きに出して子供の賃金から返済をさせるということが頻繁に行われたようです。このような契約は当然ながら身分を拘束することに繋がることから、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」と定められました。(労働基準法第17条)
その趣旨は、あくまでも身分的拘束の発生を防止することが目的であることから、労働者の申し出に基づいて住宅資金の借り入れや給料の前借りが行われており、身分的拘束により労働が強制されないことが明らかな場合にまで前借金と賃金の相殺を禁止するものではありません。
強制貯金の禁止
労働基準法第18条では「使用者は、労働契約に附随して貯蓄の契約をさせ、または貯蓄金を管理する契約をしてはならない」とされています。例えば、給料から強制的に5万円を差し引き、その5万円は使用者側で預かっておくといった制度や、給与振込先となっている口座の通帳・印鑑を使用者が所持し、労働者の申し出があったときにそこから引き出して渡すといった制度は違法となります。
一方で、労使協定を締結した上で労働者の委託を受けて使用者が預貯金を管理することは認められています。但しこの場合には一定以上の利子を付けたり、預金管理状況を定期に所轄労働基準監督署へ報告する義務が課せられる等、一定のルールを守らなければなりません。