2026年度の最低賃金改定に向けて、給与や採用条件を見直す時期となりました。大阪府は10月1日から1,231円になるなど、近畿各府県でも引上げが進みます。
確認が必要なのは、時給で働くパート・アルバイトだけではありません。月給者や日給者も対象となります。
この記事では、近畿2府4県の改定額・発効日と、給与計算、求人票、雇用契約書、助成金の検討に当たって押さえたい点を整理します。まずは、事業場ごとの発効日と、各従業員の賃金を時間額に換算した金額を確認しましょう。
近畿2府4県の最低賃金と発効日
2026年9月9日時点の公表内容は、次のとおりです。金額はいずれも1時間当たりの地域別最低賃金です。
| 府県 | 改定前 | 改定後・答申額 | 引上げ額 | 発効日・予定日 | 公表状況 |
|---|---|---|---|---|---|
| 大阪府 | 1,177円 | 1,231円 | 54円 | 2026年10月1日 | 改定決定 |
| 京都府 | 1,122円 | 1,180円 | 58円 | 2026年11月16日予定 | 答申 |
| 兵庫県 | 1,116円 | 1,172円 | 56円 | 2026年10月1日 | 改定決定 |
| 滋賀県 | 1,080円 | 1,136円 | 56円 | 2026年10月3日 | 改定決定 |
| 奈良県 | 1,051円 | 1,107円 | 56円 | 2026年10月4日 | 改定決定 |
| 和歌山県 | 1,045円 | 1,101円 | 56円 | 2026年10月3日 | 改定後の額・発効日を公表 |
京都府は、執筆時点では答申段階です。上記の額・予定日を前提に準備を進めつつ、正式な改定決定を確認する必要があります。近畿一律で10月1日に切り替わるわけではないため、複数の府県に店舗や事業所がある企業は、それぞれの発効日と金額を把握しておきましょう。
パートや学生アルバイトにも適用されます
地域別最低賃金は、正社員、契約社員、パート、学生アルバイトなど、雇用形態や年齢にかかわらず、原則としてすべての労働者に適用されます。本人が了承していても、最低賃金を下回る条件を有効にすることはできません。
試用期間中も同様です。例外的に一定の要件の下で労働局長の減額特例許可を受ける制度はありますが、会社が「試用期間だから」「研修中だから」と独自に判断して減額できるものではありません。
適用する地域別最低賃金は、原則として働く事業場の所在地で判断します。例えば、本社が大阪府でも、和歌山県の店舗で働く従業員には和歌山県の最低賃金が適用されます。派遣労働者には派遣先の事業場が所在する地域の最低賃金が適用されます。
また、業種によっては特定の産業を対象とした「特定最低賃金」があります。地域別最低賃金と両方が適用される場合は、いずれか高い方の金額以上の支払いが必要です。
給与の総支給額ではなく対象となる賃金を確認します
地域別最低賃金からは、次の賃金が除外されます。
- 結婚手当など、臨時に支払う賃金
- 賞与など、1か月を超える期間ごとに支払う賃金
- 所定労働時間を超える労働に対して支払う賃金
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払う賃金
- 深夜労働に対する賃金のうち、通常の賃金を超える割増部分
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
例えば、基本給と通勤手当の合計が最低賃金を上回っていても、通勤手当は最低賃金の計算に含めることはできませんので、基本給だけで最低賃金額以上とする必要があります。一方、通常の職務に対して毎月支払う職務手当などは対象となります。最低賃金の計算に含まれるか否かは手当の名称で決まるものではなく、手当の支給目的や条件により客観的に判定されますので、その点はご注意ください。
なお、最低賃金の計算に含めることができる賃金と、割増賃金の計算に含める賃金では、その範囲が同じではないため注意が必要です。
月給者と日給者は時間額に換算します
対象となる賃金を整理したら、次の方法で時間額に換算し、適用される最低賃金と比較します。
| 給与の定め方 | 基本となる確認方法 |
|---|---|
| 時給制 | 対象となる時間給と最低賃金を比較 |
| 日給制 | 対象となる日給 ÷ 1日の所定労働時間 |
| 月給制 | 対象となる月給 ÷ 1か月あたりの平均所定労働時間 |
月によって所定労働時間が異なる場合、月給者の分母には、年間所定労働時間を12で割った「1か月あたりの平均所定労働時間」を使います。日給の基本給に月額の職務手当を加える場合などは、それぞれを時間額に換算して合計します。
<月給者の計算例>
大阪府の事業場で、次の条件で働く従業員を考えてみます。
- 基本給:月額200,000円
- 職務手当:月額10,000円
- 通勤手当:月額10,000円
- 年間所定労働時間:2,080時間
通勤手当は最低賃金額の計算に含めることはできませんので、通勤手当を除いた210,000円で計算すると、時間額は次のとおりです。
210,000円 × 12か月 ÷ 2,080時間 = 約1,211.54円
この金額は、改定後の大阪府最低賃金1,231円を下回ります。最低賃金額を上回るためには、少なくとも次の水準以上の月額賃金が必要です。
1,231円 × 2,080時間 ÷ 12か月 = 213,373.33…円 → 円未満の端数切り上げで213,374円以上
この例では、基本給と職務手当の合計を月額3,374円以上引き上げる必要があります。
日給者も同じ考え方です。例えば、対象となる日給9,600円、1日の所定労働時間8時間なら、時間額は1,200円となり、改定後の大阪府最低賃金には届きません。
締め日の途中でも発効日から対応が必要です
最低賃金の切替えは、給与の支払日や締め日ではなく、発効日を基準に判断します。
例えば、大阪府で「毎月20日締め」の場合、9月21日から10月20日までの給与計算期間の途中に、10月1日の発効日が入ります。時給を改定前の最低賃金と同額にしている場合、次のように区分します。
| 働いた期間 | 適用する最低賃金 |
|---|---|
| 2026年9月21日~9月30日 | 1,177円 |
| 2026年10月1日~10月20日 | 1,231円 |
「次の計算期の初日(=10月21日)から引き上げる」という取扱いでは、10月1日から10月20日までの賃金が最低賃金額未満となってしまい、違法となります。
これは月給者の場合であっても同じで、発効日以降の労働分が新しい最低賃金を下回らないようにする必要があります。給与の計算を簡潔にするために、発効日に先行して給与計算期間の初日(=9月21日)から引き上げる方法を検討もよいでしょう。
固定残業代と採用関係の書類も見直しましょう
固定残業代を含めて最低賃金と比較しない
固定残業代が支払われている場合、固定残業代は最低賃金との比較から除きます。月給の総額が十分に見えても、固定残業代を除くと最低賃金に満たないことがあります。
また、基本給などを引き上げると、割増賃金の計算単価も上があります。したがって、基本給や諸手当を引き上げる場合は、残業代単価や固定残業代の再計算も忘れないように注意して下さい。
求人票と雇用契約書の金額をそろえる
給与の設定を変更したら、ハローワークの求人票、求人サイト、自社採用ページに古い金額が残っていないかを確認します。通常の給与だけでなく、試用期間中の給与や、求人に表示する下限額も点検しましょう。
既存の従業員には、変更後の金額と適用開始日を書面で知らせることをお勧めします。雇用契約書の変更合意書や賃金改定通知書などの活用が考えられるでしょう。
また、賃金規程に賃金表を定めているような場合は、その見直しも忘れず行ってください。
助成金は賃上げや設備導入を決める前に確認します
<業務改善助成金>
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金を引き上げ、生産性向上に役立つ設備投資等を行う場合に、その設備投資等の費用の一部を助成する制度です。賃上げした給与そのものを補填する制度ではありません。
2026年度は9月1日に受付が始まっています。公表されている申請期限は、事業場に適用される地域別最低賃金の発効日前日と11月30日のうち、早い方の日です。最低賃金改定に対応する賃上げは、助成金上、発効日の前日までに実施する必要があります。
例えば、大阪府・兵庫県では9月30日が基準となります。10月1日に賃上げする場合、最低賃金の改定には対応できますが、業務改善助成金の賃上げ時期の要件を満たすことはできません。
主な確認事項は、次のとおりです。
- 対象となる中小企業・小規模事業者に該当するか
- 事業場内最低賃金が2026年度の地域別最低賃金未満であるか
- 50円以上など、申請コースに応じた引上げ額を満たすか
- 対象労働者の雇用期間、週所定労働時間、雇用保険加入の要件を満たすか
- 設備投資等が助成対象となり、交付決定や実施期限に沿った計画となっているか
2026年度の案内では、雇入れ後6か月を経過した労働者の賃上げが必要とされ、引上げ対象者には週所定労働時間20時間以上の雇用保険加入者という条件も示されています。そのため、学生アルバイト等の賃上げが必ず助成対象になるわけではありません。
設備の導入は、交付決定前に行うと対象外となります。賃上げの実施時期や事前手続、設備の発注・導入の順序を、最新の要領で確認してから進めましょう。予算により受付期間内に募集を終了する場合もあります。
<キャリアアップ助成金などの検討>
有期雇用労働者等の賃金規定を改定する場合は、キャリアアップ助成金の「賃金規定等改定コース」も検討対象となります。ただし、最低賃金への対応だけで受給が決まるものではありません。賃金規定の改定内容、引上げ率、対象者、キャリアアップ計画等の手続、申請期限を確認する必要があります。
助成制度ごとに、対象となる取組や申請の順序は異なります。受給額だけで判断せず、賃上げ後の人件費を継続して負担できるか、設備投資が自社の業務改善につながるかも合わせて検討しましょう。
まずは対象者と改定日を一覧にしましょう
最低賃金改定への対応は、次の順序で進めると確認漏れを防ぎやすくなります。
- 事業場ごとに、適用される最低賃金と発効日を確認する
- 各従業員の対象賃金を時間額に換算し、不足する人と金額を把握する
- 助成金を検討する場合は、賃上げ前に要件と手続を確認する
- 改定額・改定日を決定する
- 従業員への通知、求人票、雇用契約書、賃金規程等を整える
- 給与ソフトの単価設定等を見直す
ここ最近の急激な最低賃金の引き上げで、企業によっては、経験や技能が浅い従業員とベテランや責任の重い従業員との賃金差がほとんど無くなっているような場合があります。最低賃金改定への対応を行ったうえで、できれば中堅・ベテラン層や責任あるポジションの従業員についても賃金の引き上げを行っておきたいところです。
グランサ社会保険労務士法人では、最低賃金との比較、給与計算、賃金制度の見直しに関するご相談を承っています。「どの手当を計算に含めるのか」「月途中の改定をどう処理するのか」など、判断に迷う点がございましたら、お気軽にご相談ください。
出典・参考資料
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額答申状況」
- 大阪労働局「大阪府最低賃金は、令和8年10月1日から時間額1,231円に改正されます。」
- 京都労働局「京都府最低賃金が時間額1,180円に」
- 兵庫労働局「兵庫県最低賃金 時間額1,172円に改正決定」
- 滋賀労働局「滋賀県最低賃金の改正決定について」
- 奈良労働局「令和8年度 奈良県最低賃金の改正が正式に決定しました」
- 和歌山労働局「和歌山県の最低賃金」
- 厚生労働省「最低賃金制度」
- 厚生労働省「試の使用期間中の者の最低賃金の減額の特例許可申請について」
- 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
- 厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
- 厚生労働省「割増賃金を計算する際の基礎となる賃金は何か。」
- 厚生労働省「固定残業代 適切な表示をお願いします。」
- 厚生労働省「業務改善助成金」
- 厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」
- 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内 令和8年度版」
