前回の記事(退職後に傷病手当金の支給を受けることは可能か?)で退職後も傷病手当金を受給する要件を解説しました。今回は退職後に傷病手当金を受給する場合に注意が必要な点を解説します。
雇用保険の基本手当を受けられる場合は注意が必要です
退職後も傷病手当金の支給を受けるということは、在職中は雇用保険の被保険者であったと思われます。自己都合で退職した場合ならば、原則として直近2年間に11日以上出勤した月が12月以上あれば基本手当を受給する権利が発生しますし、会社都合又はやむを得ない事情で解雇・退職の場合ならば、直近1年間に11日以上出勤した月が6月以上あれば基本手当を受給する権利が発生します。(雇用保険の基本手当についての細かな説明は今回は省略させて頂きます。)
雇用保険の基本手当が支給されるためには、
- 労働の意思及び能力を有していること
- 職業に就くことができない状態(実際に職を探している状態)にあること
上記の条件をすべて満たしていることが必要です。ここで傷病手当金に視点を戻してみると、以前の記事(傷病手当金の基本的内容について)でも確認しましたが、傷病手当金の支給要件の一つに『就労できない状態』というものがあります。ということは、「傷病手当金の支給を受けている期間=働くことができない期間」ということになり、基本手当の支給を受けるための「要件1」に引っかかるため、傷病手当金と基本手当を同時に受給することはできないことになります。
傷病手当金の受給中にハローワークでしておくことは?
雇用保険の基本手当は、原則として『離職の日の翌日から起算して1年』の間に受給することが可能です。この期間を過ぎてしまうと、例え基本手当の支給日数が残っていたとしても、残りの支給日数分(※)の基本手当を受給することができません。傷病手当金を受給している期間は基本手当の支給を受けることができませんから、基本手当の全部または一部について受給できない可能性があるわけです。例えば、自己都合退職後に傷病手当金を10か月受給したとすると、自己都合退職の場合は基本手当に3か月の給付制限期間があることから、給付制限期間中に離職の日の翌日から起算して1年が経過してしまい、基本手当を全く受給できないことになってしまいます。
※基本手当の支給は1日当たり△円を×日分という支給方法になっており、ハローワークで28日ごとに失業の認定を行い、失業が認定された分だけが支給されます。但し、65歳以上で退職した場合は異なります。
傷病手当金の支給を受けているということは病気・怪我の療養をしているわけで、病気・怪我が治癒してもすぐに仕事が見つかるとは限りません。収入が全くない状態では落ち着いて仕事を探すこともできませんし、そのような時に基本手当はとても頼りになりますから、基本手当の支給を受けられるようにしておきたいものです。このような場合には、ハローワークで受給期間を延長する手続きをしておきましょう。
基本手当の受給期間は、先程確認したように原則として『離職の日の翌日から起算して1年』ですが、妊娠、出産、育児、疾病、負傷、子の看護、一定のボランティア等の理由により引き続き30日以上職業に就くことのできない日がある場合には、その日数(最大で3年)を受給期間に加えることができます。
受給期間延長の手続きは、原則として離職後に職業に就くことができない状態が30日を経過した日の翌日から起算して1か月以内(※)に、受給期間延長申請書(ハローワークに備え付けられています)に離職票を添えて、自身の住所地を管轄するハローワーク(住所地を管轄するハローワークはインターネット等でご確認ください。)に申請します。延長申請は代理人による申請(委任状が必要です。)や郵送での手続きもすることができます。傷病手当金を受給している場合はハローワークへ出向くこと自体が難しい場合もありますので、代理人や郵送による手続きができるのは助かりますよね。
※1か月を超えてからも申請は出来ますが、なるべく期限内に申請をしておきましょう。
(離職された皆さまへ 平成29年4月版より抜粋)
(参考)雇用保険の傷病手当
受給資格者がハローワークへ求職の申し込みをした後で15日以上引き続いて傷病のために職業に就くことができない場合は、基本手当の日額に相当する額の傷病手当が所定給付日数の範囲内で支給されます。傷病手当金は支給を始めてから1年6か月までしか支給されませんので、傷病手当金の支給が終了してなお療養が必要な場合は、雇用保険の傷病手当を受給する場合があります。