労働契約法第20条違反を争ったハマキョウレックス事件と長澤運輸事件について2018年6月1日付で最高裁判決が下されましたが、両判決において労働契約法第20条に違反しているかどうかは、各賃金項目ごとに判断する枠組みが示されました(労働契約法第20条の解釈については最高裁判決から見る労働契約法第20条を参照)。
今回は、ハマキョウレックス事件において各賃金項目ごとにどのような判断が下されたのかを確認します。なお、本件はトラック運転手である契約社員が同じくトラック運転手である正社員との待遇差について争った事案になります。
(判決文はページ最下部にてご確認いただくことができます。)
賃金項目ごとの判断 概要
手当等 | 正社員 | 契約社員 | 不合理性の判断 |
無事故手当 | 10,000円 | なし | 不合理 |
作業手当 | 10,000円(注1) | なし | 不合理 |
給食手当 | 3,500円 | なし | 不合理 |
住宅手当 | 20,000円(注2) | なし | 不合理でない |
皆勤手当 | 10,000円 | なし | 不合理(最高裁判断) |
通勤手当 | 5,000円(注3) | 3,000円(注4) | 不合理 |
<注>
- 特殊業務に携わる者に10,000円~20,000円の範囲内で支給。本件に関係する事業場では一律10,000円を支給
- 21歳以下は5,000円
- 本件の契約社員と同条件の場合に支給される金額。交通手段及び通勤距離に応じて金額は変動する
- 平成26年1月以降は正社員と同額が支給されるようになっている。
不合理性の判断において考慮すべき事項について
労契法20条において不合理性の判断において労働者の業務の内容、当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮するものとされていますが、これらについて最高裁判決では次のように認定しています。
- 正社員と契約社員を比較して、業務の内容に相違はない。
- 正社員と契約社員の両者間で業務に伴う責任の程度に相違があった事情はうかがえない。
- 正社員は出向を含む全国規模の異動が命じられる可能性があるが、契約社員は転勤・出向は予定されていない。
- 正社員は等級役職制度が設けられており将来の中核を担う人材として登用される可能性があるが、契約社員にはこのような制度は無く、中核人材としての登用も予定されていない。
以下、各賃金項目ごとの判断を詳しく見ていきましょう。
<無事故手当>
無事故手当は優良ドライバーの育成、安全な輸送による顧客信頼の獲得を目的とするものと認められ、正社員の人材活用の仕組みとは直接の関連性を有するものではなく、契約社員に支払われないのは不合理である。(高裁判断を是認)
<作業手当>
作業手当は、元来、乗務員の手積み・手降ろし作業に対して支払われるものであった(現在は一律に支給している。)。契約社員が手積み・手降ろし作業を行っていなかった証拠が見当たらないため、契約社員に支払われないのは不合理である。(高裁判断を是認)
<給食手当>
給食手当は食費補助として支給されるものであって、正社員の職務内容や変更の範囲とは関係なく支給されるものであるから、契約社員に支払われないのは不合理である。(高裁判断を是認)
<住宅手当>
住宅手当は、住宅費用を補助する趣旨で支給されるものであり、正社員は転居を伴う配転が予定されているのに対し、契約社員は転勤が予定されていないことから、正社員は契約社員と比較して住宅費用が多額となる可能性が考えられるため、契約社員に住宅手当が支払われないのは不合理ではない。(高裁判断を是認)
<皆勤手当>
皆勤手当は、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであり、正社員と契約社員の職務の内容は異ならないから、出勤する者を確保することの必要性については、両者の間に差異が生ずるものではないし、異動の有無およびその範囲や人材登用の違いによって必要性が異なるものでもない。また、労働契約や契約社員就業規則によれば、勤務成績を考慮して昇給することがあるとされているものの、昇給しないことが原則となっている以上は、皆勤の事実を考慮して昇給が行われた事情もうかがえない(注)。これらの事情からすると、契約社員に支払われないのは不合理である。(高裁判断を是認せず)
<注>
高裁では、勤務成績を考慮して行われる昇給(の可能性)が、皆勤手当の代替手段になり得るとして、不合理ではないとの判断をしていました。
<通勤手当>
通勤手当は、通勤に要する費用の全部または一部を補填する趣旨で支給されるものであり、職務の内容や変更の範囲とは関係なく支給されるものであるから、契約社員に支払われないのは不合理である。(高裁判断を是認)
おわりに
以上、ハマキョウレックス事件の賃金項目ごとの判断を確認しました。今回争われた賃金項目の中でも、特に給食手当、皆勤手当、通勤手当などは業種にかかわりなく支給される手当であり、手当支給の見直しが必要な企業はかなりの数に上るのではないかと思われます。
中核となる人材を獲得する為に福利厚生の趣旨で給食手当を支給したり、中核人材を獲得する範囲を広げる趣旨で通勤手当を手厚くしたりすることは、あって然るべきことであると考えられるところですが、本判決では人材登用の差があるにも関わらず、不合理であると判断しました。
このことからすると、職務の内容が無期契約労働者と有期契約労働者で異ならないケースについては、不合理であるか否かについてかなり慎重に判断しなければならないと言えるでしょう。
判決文:ハマキョウレックス事件(平30.6.1 最二小判決)
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