高卒初任給17万円から見えてくる今後の経営課題とは

 日本経済団体連合会(経団連)と東京経営者協会(東京経協)が実施した「新規学卒者決定初任給調査」によると、2019年3月卒の高卒事務系初任給平均が170,932円となっています。

 本調査は経団連と東京経協の会員企業に対して行われたもので、東京都内の大手・中堅企業の実態が反映されたものとなっているため、東京圏以外の地域では相場観としては大きな意味はないとも言えますが、170,932円から見えてくることがあります。

 東京都の2019年4月時点の最低賃金額は985円/時間でした。高卒初任給170,932円を最低賃金額で割ると約173.5という数字が出てきますが、そうすると時給985円で173.5時間働いた場合の金額とほぼ一致するということになります。

 一般的な正社員の月当たりの所定労働時間はおおよそ170時間前後と考えられますので、つまり高卒初任給の170,932円というのは、最低賃金額で支払っているという意味になります。

 ここから見えてくる短期の経営課題としては、2020年3月卒の初任給額引き上げです。2019年10月には最低賃金額が全国的に大幅アップしていますから、2020年3月卒の初任給額を再度引き上げなければならない企業は多いかもしれません。

 これだけならばまだよいのですが、中・長期的な経営課題が隠れていることも見えてきます。例えば、2020年3月卒の高卒初任給を最低賃金額を基準として設定する場合、東京都の現在の最低賃金額は1,013円ですから、1,013円×173.5時間=175,756円/月という金額になります。

 昨年入社したAさんの初任給は170,932円でした。2020年4月にAさんに対して5,000円/月の昇給をしても175,932円にしかなりません。2020年4月に入社するBさんの初任給は175,756円です。その差はたった176円しかありません。これではAさんのやる気が出ませんよね。

 この話は去年と今年の新卒入社者間だけではありません。最低賃金が毎年20円以上も上昇するようなことが今後も続くと、新卒入社者と5年目・10年目の従業員が同じ賃金額になってしまうことすら考えられます。(特にパート・アルバイトに顕著に現れると思われますが、正社員であっても否定できないかもしれません。)

 つまり近年続いている最低賃金の大幅な引き上げは、自社内の低賃金層だけではなく、その上の中間層の賃金にまで大きく影響を及ぼし始めていると言え、企業としては非常に頭が痛い問題となってくるかもしれません。

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