小さな会社でジョブ・カード利用のすすめ

 ジョブ・カードはご存じでしょうか?ジョブ・カードとは、①生涯を通じたキャリア・プランニング及び②職業能力証明の機能を担うツールとして、厚生労働省が様式を定めて普及を進めているものです。

 どちらかと言えば、従業員さんが自身のキャリア開発をすることが目的の向きがありますが、会社が行うタレント(人材)管理にも十分に活用することができます。

 今回は、小さな会社でのジョブ・カード利用のご提案をしてみたいと思います。

従業員さんのこと どれぐらい知っていますか?

 毎日顔を合わせて一緒に働いている従業員さん。「毎日一緒におるんやから知らん事なんかないで」ということであればそれで結構なのですが、「○○さんて、いつの間にか△△の資格取ってたんや」とか「日常会話できるぐらいには××語できるなんて、知らんかったわ」なんて経験はないでしょうか?

 採用面接の時には履歴書や職務経歴書を提出してもらうと思いますが、入社してからは情報が全然アップデートされていないなんて普通のことかもしれません。それは前述したように、「毎日仕事を一緒にしている=何でも知っている」という思い込みがあるからだと思います。あるいは、人事評価を行っているから何でも分かっているという思い込みもあるでしょう。

 実際には、仕事以外の私生活に関して全てを知っているわけではないので、私生活上でいつの間にか頑張って資格を取っていたり、新しくできた恋人が外国人で外国語がある程度話せるようになっていたりしているかもしれません。

 しかし、新たに取得した資格が現在の仕事と関係の無いものであれば会社でそのことを話す機会がないかもしれませんし、恋人ができたことや恋人が外国人であることまでは話さないかもしれません。

 また、人事評価についても、一般的には目標に対する達成度合いや、望ましい行動を取っているか等を判断するものであって、従業員さんの隠れた能力や才能を炙り出したり、仕事に対する思いや考え方まで捉えきったりは出来ないと思います。

ジョブ・カードの内容

 ジョブ・カードは3つの様式による構成となっています。

<キャリア・プラン>

  • 価値観、興味、関心事項等(大事にしたい価値観、興味・関心を持っていることなど)
  • 強み等(自分の強み、弱みを克服するために努力していることなど)
  • 将来取り組みたい仕事や働き方等(今後やってみたい仕事や働き方、仕事で達成したいことなど)
  • これから取り組むこと等(今後向上、習得すべき職業能力やその方法など)
  • その他(自己PRや相談したいことなど)

 社内でのポジション変更(後輩の入社、上司・先輩の退職や異動、自身の異動や昇進など)やライフステージ(結婚、出産・育児、子の進学、介護など)によって大きく変わり得る部分です。

 「価値観・興味・関心等」と「仕事」の不一致による退職は会社にとって痛手ですから、退職に至る前に対策を講じることができれば、会社にとって大きなメリットです。また、「価値観・興味・関心等」と「仕事」を一致させて気持ちよく働いてもらうことや、強みを理解してさらに強化するなど、パフォーマンスの向上が期待できます。

<職務経歴>

  • 自社だけでなく他社での経験も含めて、職務の内容や職務から学んだ知識、技能、学びなど

 入社時の履歴書は人事で保管しており、経営幹部や職場の上司が職務経歴を把握できていることは少ないと思われるので、異動の検討や新規事業立ち上げなどで大いに参考になる可能性があります。

<職業能力>

  • 免許・資格の取得時期や内容など
  • 学歴や訓練履歴

 現在の職務とはあまり関係ないものでも記載してもらうことで、先の職務経歴と併せて急な欠員が生じた際の緊急対応や新規事業立ち上げ時の人員配置検討などで大いに参考になる可能性があります。

 訓練履歴には、自己学習の内容(免許・資格の取得までは至らなかったものや、そもそも免許・資格の対象ではないものを含む)を加えてもよいでしょう。

ジョブ・カードの運用

 ジョブ・カードは、次のタイミングでの作成・更新で十分でしょう。

  • 入社のタイミング
  • 異動のタイミング
  • 定期的なタイミング(半年に1回、1年に1回など)

 ジョブ・カードの作成・更新のタイミングで面談をお勧めします。それによって、上司・部下のお互いの理解が深まったり、以前からの変化に対する気付きが得られたりするからです。

小さな会社ではジョブ・カードで必要十分

 ジョブ・カードは紙ベース(精々PDFぐらいまで)の情報管理で、多数の管理には向きませんが、コスト面の心配はありません。管理する対象人数が多くなってくると、どうしてもシステム化が必要になってくるため、それなりの費用負担が避けられませんが、小さな会社であればジョブ・カードで必要十分です。

 とは言え、いくら小さな会社であっても、タレント(人財)管理を何もせずにきっちり把握できるものではありません。

 従業員さんを今以上に輝く人材(人財)に育てていく第1歩として、ジョブ・カードを活用して、各従業員さんの個性や能力を把握することを始めてみませんか。

 なお、ジョブ・カードの様式は厚生労働省のWebサイトからダウンロード可能です。