企業負担増? 第201回通常国会に提出予定とされる法案とは
各種報道によると、第201回通常国会(令和2年1月20日~)において、企業負担が増すことになりそうな法案が提出される予定となっているようです。
1 短時間労働者の被用者保険(健康保険・厚生年金保険)適用拡大
原則として、健康保険・厚生年金保険の加入対象となるのは、「①正社員」と「②正社員に対して、1週の労働時間及び月の労働日数が4分の3以上の者」です。
平成28年からは、①と②の従業員数が501人以上の企業に勤める短時間労働者(※)も加入対象となりました。
※次の要件をすべて満たす者
- 週の労働時間が20時間以上
- 賃金が月額88,000円以上
- 1年以上の雇用見込みがある
- 学生でない
また、平成29年からは、①と②の従業員数が500人以下の企業であっても、労使が合意の上で、短時間労働者(条件は上記と同じ)でも加入対象とすることができるようになりました。
これまでは、上記のとおり、短時間労働者が加入対象となるのは比較的規模の大きい場合に限られていました。また、規模が小さい場合は、あくまでも任意に加入させることができるにすぎませんでした。
しかしながら、今国会では短時間労働者のさらなる適用を拡大する法案が提出される見込みで、具体的には次の内容です。
- 令和4年10月には①と②の従業員数が101人以上の企業に適用拡大
- 令和6年10月には①と②の従業員数が51人以上の企業に適用拡大
- 1年以上の雇用見込みという適用要件は削除
平成28年に501人以上規模の企業に勤める短時間労働者に適用拡大されてから僅かの期間しか経過していませんが、早くも大幅な適用拡大の動きです。社会保険料は業績が赤字であっても支払いが免除されず、企業にとっては非常に負担が重い内容と言えます。
2 賃金請求権の時効が2年から5年(当面は3年)に延長
労働基準法第115条において、賃金の請求権は2年の時効が定められています(退職金は5年の消滅時効)。ところが、改正民法(令和2年4月1日施行)で債権の消滅時効が5年または10年に整理されることに伴い、労働基準法に定める賃金請求権の時効についても延長が検討されてきました。
そして、今国会では、賃金請求権の消滅時効を2年から5年(但し、当面の間は3年)に延長する法案が提出される見込みです。
賃金請求権の消滅時効が問題になるのは、主に賃金の未払い請求(残業代など一部未払いを含む。)をする場合です。賃金をきちんと支払っていれば企業側の負担が増える内容ではありませんが、それほど単純な問題ではありません。
故意に賃金を支払わないのは論外ですが、意図せず賃金未払いが発生することがあります。例えば、労働時間の認識の相違(外出先での労働時間、休憩時間や手待ち時間、単に会社内にいる時間など、労働時間のグレーゾーンは多数存在します。)や、管理監督者の該当・非該当の認識の相違、賃金計算方法の解釈や計算設定の誤り等々により、結果的に賃金未払いが発生するケースも多いのです。
中小企業であっても、未払い残業代訴訟で数百万円の支払いを命じられるケースもあるのが実情ですが、賃金請求権の消滅時効が3年に延長されれば1.5倍、5年に延長されれば2.5倍の金額に膨れ上がることも考えられます。
3 70歳までの就業機会の確保が努力義務に
現在は一部例外を除いて65歳までの雇用確保が必要ですが、さらに延長して70歳までの就業機会の確保を努力義務とする内容の法案が提出予定となっています。
実際のところ、中小企業においては人手不足ということもあり、高齢者雇用に対する取り組みは進んでいるため、中小企業にとってはそれほど大きな影響はないかもしれません。ところが、法案の中身を見ると、腑に落ちない内容が含まれていることが分かります。
- 個人とのフリーランス契約への資金提供
- 個人の起業支援
- 個人の社会貢献活動(ボランティア)参加への資金提供
これらも70歳までの就業確保措置の選択肢とされているのですが、皆さんはどのようにお感じになるでしょうか?筆者個人としては、「事業主がこのようなことまでする必要があるのか?」と思わずにはいられません。