指定感染症で従業員が休んだとき 賃金の支払い必要?
中華人民共和国の湖北省武漢市を中心に感染を広げている新型コロナウイルス関連肺炎ですが、令和2年1月28日時点で、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症法」と言います。)第6条第8項にある「指定感染症」に指定することが発表されました(政令施行日は令和2年2月1日付)。
感染症法には、各種感染症が感染力や致死率などに応じて1類から5類までに分類されていますが、今回の新型コロナウイルス関連肺炎のように未分類の感染症は、政令で「指定感染症」に分類することができ、危険度が高い1類から3類までの感染症に準じた措置を取ることができるとされています。
「指定感染症」に指定されたことで、都道府県知事は、新型コロナウイルス関連肺炎の患者と無症状病原体保有者に対して就業禁止の通知をすることができ、当該通知を受けた者は就業することはできません(感染症法第18条第1項及び第2項)。
就業禁止の通知を受けた従業員がいる場合、事業主は当該従業員に対して出勤停止の措置を講じることになります。この場合の賃金の支払いですが、法令上に就業禁止の根拠があり事業主都合によるものとは言えないことから、ノーワーク・ノーペイの原則により、出勤停止をした日の賃金を全額不支給とすることができるものと考えられます。(但し、就業規則等で賃金を支払う旨を定めている場合には、賃金支払いの義務が生じます。)
一方、都道府県知事からの通知がなく、新型コロナウイルス関連肺炎に罹患しているかもしれないというだけで出勤停止を命じる場合は、少なくとも休業手当(労働基準法第26条)の支払いが必要になり、場合によっては民法536条第2項の定めにより賃金全額の支払いが必要となる場合もあると考えられ、注意が必要です。
難しいのが、従業員と同居する家族が新型コロナウイルス関連肺炎に罹患している場合です。この段階では法令上の就業禁止に該当しませんので、出勤停止を命じた場合は、休業手当の支払いが必要です。しかしながら、当該従業員が家族から感染していることは十分に考えられ、他の従業員に感染するリスクは相対的に大きいと言えます。事業主は、安全配慮義務により従業員を安全・健康に働かせる義務を負いますので、休業手当を支払ってでも、事業主としては積極的に出勤停止の措置を講じるべきと考えます。(出勤停止の措置を取らなかったことで他の従業員が感染し、重症化又は死亡したような場合、当該従業員やその家族から安全配慮義務違反として訴えられるようなこともあり得るでしょう。)
なお、出勤停止とするのではなく、法定の年次有給休暇や事業主が任意に定める特別休暇の取得により仕事を休んでもらうという対応は、実務上あり得るでしょう。