パワハラの典型例 その1

 セクハラ・マタハラ(妊娠・出産に対するハラスメント)については防止するための措置を事業主が講じることが法律上義務付けられていますが、新たにパワハラについても防止のための措置を講じることが2020年6月1日より義務化されます。(中小企業は2022年3月31日までは努力義務。)

 そこで、パワハラの典型例を3回に分けてご紹介していきますので、パワハラのイメージをつかんでおきましょう。

パワーハラスメントの定義

 厚生労働省の指針(※)によると、パワハラは次の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。

  • 優越的な関係を背景としているもの(「上司から部下」だけでなく、「部下から上司」や「同僚から同僚」というパターンも)
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によるもの
  • 就業環境を害するもの

※事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2.1.15 厚生労働省告示第5号)

 一方で、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラには該当しないとされています。

 そして、パワハラの代表的な言動の類型として指針には次の6類型が示されています。

  1. 身体的な攻撃(暴行・障害)
  2. 精神的な攻撃(強迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  5. 過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 今回は、上記の「1.身体的な攻撃」と「2.精神的な攻撃」の具体例を見てみましょう。

1.身体的な攻撃の事例

<指導を印象付けるための平手打ち>

建設現場で高所作業をしている作業員Aが、墜落制止用器具を正しく装着せずに作業していることを現場監督Bが発見した。転落事故が発生すれば死亡事故や重大事故になりかねないことから厳重に注意するとともに、二度と忘れるなと言って、1度だけ作業員Aの頬を平手打ちした。

 転落事故の重大性を考えると厳しく注意しなければ、という現場監督Bの考えは十分に理解できますが、それでも平手打ちまでしてしまうと指導として業務上必要かつ相当な範囲を超えてしまい、パワハラに該当することとなります。

<忘年会で部下の態度に激高して暴行>

業務終了後の忘年会で、課長Aがトイレに向かったところ、部下Bが先にトイレの順番待ちをしていた。順番待ちの間に、課長Aは部下Bに対して日頃の業務に対するアドバイスを行ったが、部下Bはこれを軽く受け流した。腹を立てた課長Aは部下Bの肩を強く押し、部下Bはあまりの勢いに身体を壁に強く打ち付けた。

 殴る・蹴るではなくとも、身体的な攻撃に該当する場合があります。なお、本件のように会社施設外や勤務時間外の出来事であってもパワハラに該当する場合があります。

2.精神的な攻撃の事例

<暴言・他の職員の目の前での叱責>

営業社員Aは、顧客先への訪問予定をうっかり忘れたり、間違った金額の見積書を送ってしまったりと、仕事上のミスを繰り返していた。課長Bは日頃から注意・指導を行ってたが、ある時、感情的になってしまい、 他の職員もいる場で「ボケ」「クズ」「死ね」と大声で怒鳴り散らしてしまった。

 ボケ、クズ、死ねといった言葉は人格を否定するような言葉であり、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱して精神的な苦痛を与えることから、パワハラに該当します。

 また、他の職員の面前で行われる注意・指導が見せしめとして行われる場合、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱して精神的な苦痛を与えると考えられ、やはりパワハラに該当します。

<長時間にわたり叱責>

職員Aは給与計算事務を担当していたが、頻繁に計算間違いをしていたために、他の従業員から大量のクレームが入るようになっていた。課長Bは職員Aを会議室に呼び、3時間にわたって厳しく叱責した。

 必要以上に長時間の叱責は、業務上必要かつ相当な範囲を逸脱すると考えられ、パワハラに該当します。

 このような場合は、単に叱責するだけでなく、計算間違いの原因分析と対策を検討・実行・検証することが必要ですし、場合によっては配置転換も必要でしょう。

<上司を馬鹿にする部下>

ベテランの専門職である職員Aは、新しく着任した課長Bに対して、「そんなことも知らないのか」などと鼻で笑ったり、嫌みを言ったりを繰り返していた。また、課長Bが職員Aに業務指示を出しても聞こえないふりをして無視するようなことが続き、次第に他の職員までが課長Bを軽んじる雰囲気となった。

 同じ職場で長年勤めていることや高い専門性を持っていることに由来する優位性を背景に行われており、部下から上司に対してであってもパワハラに該当することがあります。

 以上、今回は「1.身体的な攻撃」「2.精神的な攻撃」のパワハラ事例をご紹介しました。次回は「3.人間関係からの切り離し」「4.過大な要求」のパワハラ事例をご紹介します。