「労災隠し」の意味を勘違いしていませんか?

 「労災隠し」はダメという認識はあると思いますが、「労災隠し」の意味を勘違いしていることが多いので、ご注意ください。

 豊橋労働基準監督署は、派遣労働者の死傷病報告を遅滞なく提出しなかったとして、派遣先法人、派遣先の課長及び組長、派遣元法人、派遣元の代表取締役の2社3人を書類送検しました。

 派遣労働者Aが派遣先で勤務中に怪我をし、約5か月間の休業をすることになりました。休業を要する労災事故が発生した場合、派遣先と派遣元はそれぞれ死傷病報告を監督署に提出しなければなりません(労働安全衛生規則97条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律45条)。しかし、派遣先は労災事故を隠すために死傷病報告を提出しなかっただけでなく、派遣元にも死傷病報告を提出しないように持ち掛けました。

 派遣労働者Aが休業している間、書類上は派遣労働を続けているように装い、派遣先は派遣料金を支払っていました。また、派遣元からは給料が支払われ、治療費についても派遣元が負担していました。(なお、治療には健康保険が使われていましたが、労災事故で健康保険を使うことは法律上できませんので、この点においても違法です。)

 最終的には、怪我が治りきっていないにもかかわらず、派遣先が業務復帰を急かしたことで怪我が悪化し、派遣労働者Aが労働基準監督署に相談したことで事件が発覚しました。

 さて、ここで「労災隠し」の勘違いに話を戻したいと思います。労災隠しは「労災保険を使わないこと」と思っている方が多いのですが、そうではありません。労災事故が発生した場合、治療費や賃金については使用者に補償責任がありますが、本事例のように使用者負担で保障しても構いません。また、労災保険は被災労働者の請求に基づいて給付が行われることから、「労災保険を使わないこと」自体は違法ではありません。(但し、本件のように大きな怪我をしたような場合は障害補償等が生じる可能性も十分考えられるため、労災保険を使うことを強くお勧めします。)

 それでは「労災隠し」が意味するものは何かと言いますと、「私傷病報告を提出しないこと」が労災隠しに該当します。死傷病報告は休業を伴う労災事故が発生したときに管轄の労働基準監督署へ提出しますが、休業日数が4日以上の場合と3日以下の場合では提出時期が異なります。

休業4日以上または死亡事故の場合 事故発生後速やかに(1週間から2週間以内目途)
休業3日以下の場合

3ヶ月に1回まとめて提出

1~3月分 → 4月末まで

4~6月分 → 7月末まで

7~9月分 → 10月末まで

10~12月分 → 1月末まで

 なお、事業場内で発生した死傷病については、労災事故であるかどうか判別がつかないような場合(例:勤務中に脳梗塞をおこして倒れたが、業務との相当因果関係が明らかではない場合等。)でも死傷病報告の提出は必要ですので、ご注意ください。