妻の不倫相手の勤務先に損害賠償請求 裁判所の判断は?
妻の不倫相手の勤務先に対して、夫が損害賠償を求めた事件です(東京地裁 R2.6.1判決)。妻は報道機関で記者をしており、別の報道機関で同じく記者をしている男性と不倫関係となり、二人は同居するようになりました。
不倫相手を訴えるのはともかく、不倫相手の勤務先を訴えたのには理由があります。民法第715条には「使用者責任」が定められており、従業員が事業の執行で第三者に損害を与えた場合、使用者はその損害を賠償する責任を負うとされています。なお「事業の執行」には、従業員の職務そのものには属しないが、外観上は職務の範囲内のように見える行為を含むものとされています(外形標準説)。
原告である夫の主張としては、妻と不倫相手の男性は報道機関の記者として同じような情報を取材・収集していることから、不倫関係となって同居することが「同業他社の動向を取得する手段」となっており、(同業他社の動向を取得するという)事業の執行と密接な関連がある不貞行為により受けた損害について、使用者責任により損害賠償せよ、ということです。
これに対して裁判所は、不倫相手の勤務先はそもそも不倫の事実を知らず、業務遂行の過程で異性と親しくなって不貞行為に至ったとしても、事業の執行とは到底認められない。また、不貞行為を含む男女の関係は、基本的に私生活の領域に属する事柄であって、外形を客観的に観察しても職務の範囲になく、事業と密接な関係がある行為とも認められないとして、原告の請求を棄却しました。さすがに不貞行為を情報収集の手段としているという主張には無理があったようです。
ところで、今回は妻の不倫相手の勤務先を訴えるというケースでしたが、社内不倫の場合はどうでしょうか。基本的には社内不倫であっても私生活の領域に属する事柄であるため、今回のケースと同じように使用者とは関係が無いと思いたいところです。
しかしながら、社内不倫が公然と行われていれば、同じ職場の同僚などから不倫行為を見せられるのはセクハラ行為であり、そのような状態を放置している使用者もけしからんということで、不倫行為を見せつけられている同じ職場の従業員から使用者が訴えられる可能性があります(会社は快適に仕事ができる職場環境を整備する必要があるする裁判例あり。)。
また、不倫関係が破綻した場合には、そのことがきっかけでパワハラが発生したり(上司と部下が不倫関係にあった場合など)、あるいは(気まずさなどから)生産性の低下や仕事の滞りが発生するなど、使用者として何らかの対応が必要となるケースもあります。
以上、労務の視点から見た不倫のあれこれでした。