送検事例から学ぶ 36協定の注意点

 労働基準法では、原則として時間外(残業)・休日労働を認めていません。しかしながら、労使で協定を交わし、その内容を労働基準監督署に届出することで、その協定に定めた範囲内で時間外・休日労働をさせることができます。なお、この労使協定について労働基準法第36条に定められていることから、時間外・休日労働に関する労使協定のことを36協定(さぶろくきょうてい)と呼んでいます。

 今回は、送検事例から36協定に関する注意点を見ていきたいと思います。

<事例1>

 鳥取・米子労働基準監督署は、時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)の限度時間を超えて違法残業をさせたとして、●●業の㈱●●(鳥取県●●)と同社元生産統括本部生産部課長を労働基準法第32条(労働時間)違反の容疑で鳥取地検米子支部に書類送検した。

 同社は平成31年2月、ベトナム人技能実習生1人に対して36協定で定めた限度時間である1カ月80時間を超えて違法残業させていた疑い。総残業時間は100時間に達している。

【令和2年3月6日送検】

引用元 https://www.rodo.co.jp/column/90234/

<ポイント>

 適法に時間外・休日労働をさせることができるのは、あくまでも協定で定めた範囲内ですので、本件のように協定で定めた範囲を超えて時間外・休日労働を行わせることは違法となります。

 なお、事例では80時間の限度時間を定めていますが、2019年4月1日以降(中小企業は2020年4月1日以降)に締結する36協定の限度時間は1ヶ月45時間が上限となります。

 また、労働基準法第121条には「両罰規定」が定められており、違反行為をした行為者だけでなく、違反行為によって利益を得ることになる法人も併せて罰せられます。本事例で法人と元生産統括本部生産部課長の両方が送検されているのは両罰規定によるものです。

<事例2>

 石川・金沢労働基準監督署は、労働者1人に対し違法な時間外労働を行わせたとして、●●業の㈱●●(石川県●●)と同社取締役総務部長を、労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで金沢地検に書類送検した。最長で1ヵ月77時間の時間外労働をさせていた。

 同社は平成29年7月~30年5月までの間、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を届け出ず、または1カ月42時間とした協定時間を超えて時間外労働に従事させていた疑い。

 届け出た協定には特別条項は1カ月100時間を上限とする特別条項を盛り込んでいたが、労使協議がされておらず無効となった。

【令和2年3月24日送検】

引用元 https://www.rodo.co.jp/column/90618/

<ポイント>

 通常は36協定を締結しても1ヶ月45時間(1年単位の変形労働時間制の適用を受ける場合にあっては1ヶ月42時間。以下同じ。)までしか時間外労働をさせることができませんが、繁忙期など特別の事情がある場合には、1ヶ月100時間未満かつ年6回までを上限に、45時間を超えて時間外労働をさせることができます。

 上記の特例が認められるためには、45時間を超えて時間外労働をさせることが必要となる具体的な理由や上限の時間数等を36協定へ規定しなければならず、これを特別条項と言います。

 筆者の推察になってしまいますが、監督署が実態を調査するなかで、36協定の締結時に労働者に対して特別条項に関する説明を何ら行わずに署名・押印だけをさせていたといったような事情が判明したために特別条項が無効となったのではないでしょうか。

<事例3>

 神奈川・川崎北労働基準監督署は、労働者に違法な時間外労働・休日労働を行わせたとして、寮の管理などを行う㈱●●(神奈川県●●)および同社代表取締役ら2人を労働基準法第40条(労働時間の特例)違反などの疑いで横浜地検川崎支部に書類送検した。

 同代表取締役らは平成28年12月2日~30年5月31日、有効な労使協定を締結・届出せず、労働者が常時10人未満の商業に適用される法定労働時間(1日8時間、週44時間)を超える労働と休日労働を労働者に行わせた疑い。

 労働者の過半数で組織する労働組合がない中で、使用者が一方的に指名した過半数代表者との間で協定を締結し、届け出ていた。

【令和2年6月26日送検】

引用元 https://www.rodo.co.jp/column/93069/

<ポイント>

 労使協定を過半数従業員代表との間で締結する場合、過半数従業員代表は投票、挙手、労働者の話し合い等の民主的な方法によって選出することが必要です。本事例のように使用者が一方的に代表者を指名している場合は、労使協定が無効となりますので注意しましょう。

 過半数従業員代表の選出について厚生労働省のパンフレットが出されていますので、そちらも参考にしてみて下さい。

<事例4>

 東京・八王子労働基準監督署町田支署は、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結せずに違法な時間外労働を行わせたとして、●●㈱(東京都●●)と当時部長だった同社代表取締役を、労働基準法32条(労働時間)違反の疑いで東京地検立川支部に書類送検した。平成28~29年にかけて、36協定を締結するよう是正指導したうえで督促をし続けていたにもかかわらず、同社が提出しなかったため送検に踏み切った。

(中略)

 同労基署によると、違反の理由として業務が多忙で先延ばしにし続けていたことを挙げているという。「以前は36協定を提出していたことがあり、法知識がないわけではなかった。36協定の期限が切れてから多忙を理由に提出を放置していた」としている。

【令和2年7月31日送検】

引用元 https://www.rodo.co.jp/column/94060/

<ポイント>

 36協定には有効期間を定める必要がありますので、協定の締結・届出を1回だけしておけばよいものではなく、有効期間が終了したら新たに協定の締結・届出を行う必要があります。

なお、36協定の有効期間について法律上の定めはありませんが、36協定の対象期間が「1年間に限る」とされていることから、有効期間も1年とすることが一般的です。

<事例5>

 愛知・名古屋南労働基準監督署は、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を届け出ずに違法な時間外労働を行わせたとして、●●業の㈱●●(愛知県●●)と同社専務取締役を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで名古屋地検に書類送検した。企業全体では36協定を締結していたが、事業場ごとの締結を怠っていた。

【令和2年9月4日送検】

引用元 https://www.rodo.co.jp/column/96532/

<ポイント>

 36協定は事業場ごとに締結・届出が必要です。従って、例えば本社、静岡工場、名古屋支店という3拠点がある場合は、それぞれの拠点で36協定を締結し、拠点の所在地を管轄する労働基準監督署に届出をすることになります。

 本社と各事業場で36協定の内容が同じ(労働者数などの差はあっても構わない)であれば、本社の所在地を管轄する労働基準監督署に一括して届出することも可能です。