テレワーク普及に対する厚生労働省の本気度を感じた出来事

 政府がテレワークの推進を求め始めて久しいですが、厚生労働省は割と本気になっているかもしれません。

 以前よりテレワークの労務管理に関するガイドラインを作成したり、テレワーク総合ポータルサイトを解説して情報提供を行ったりしている厚生労働省ですが、「これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第5回)」の報告書が2020年12月に公表されました。(厚生労働省ホームページにて確認できます。)

※なお、同検討会は2020年8月が第1回の開催で、12月に第5回ですから割と早いペースの開催ではないでしょうか。

 報告書によると「テレワーク推進のためには(中略)わかりやすいマニュアルが必要であり、(中略)テレワークガイドラインを、本報告書を踏まえて見直していくことが適当である。」との記載があり、今後ガイドラインの見直しがあると思われます。

 報告書ではテレワークの際の労働時間管理の在り方について次のような記載があります。

 テレワークは、働く場所や時間を柔軟に活用することが可能であり、業務を効率的に行える側面がある一方、集中して作業に従事した結果、長時間労働になる可能性があり、過度な長時間労働にならないように留意することが重要である。また、労働者が労働時間を過少申告することがないよう、健康管理の観点からも、使用者は労働時間を適切に把握することが必要である。

これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第5回)報告書 9ページ

 上記は従来からのおさらいのようなものですが、ここからこれまでには無かった視点からの方向性が示されています。

 一方で、例えば、使用者が個々の労働者の仕事の遂行状況を常時把握・管理するような方法は、あまり現実的ではない場合もあり、またテレワークのメリットを失うことになりかねないという点についても留意が必要である。

これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第5回)報告書 9ページ

 さらに踏み込む形で次のような提言もされています。

 テレワークの場合における労働時間管理について、労使双方にとって負担感のない、簡便な方法で把握・管理できるようにする観点から、(中略)自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識している場合を除き、労働基準法との関係で、使用者は責任を問われないことを明確化する方向で検討を進めることが適当である。

これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第5回)報告書 10ページ

 また、テレワークを自宅で行う際には生活の場所で仕事を行うという性質上、中抜けが生ずることも想定される。このことから、取扱いについて混乱が生じないよう、中抜け時間があったとしても、労働時間について、少なくとも始業時間と終業時間を適正に把握・管理すれば、労働基準法の規制との関係で、問題はないことを確認しておくことが適当である。

これからのテレワークでの働き方に関する検討会(第5回)報告書 10ページ

 現行のガイドラインでは適切な時間管理の重要性をことさらに強調している影響もあってか、使用者側がテレワーク中の一挙一動を常時監視するような制度やシステムを導入して、息の詰まる様な思いをしながらテレワークで働いている事例も生じていると聞き及んでいます。

 労働法制・労働行政では「厳格な労働時間管理=労働者保護」と考えられてきましたが、テレワークにおいては(労働時間管理の重要性を前提としながらも)必ずしもそうではない点が示されたことは画期的であり、ある程度のテレワークの普及を真剣に考えているという厚生労働省の意気込みを感じたのですが、皆さんはいかがお考えでしょうか。

<余談>

 国税庁から「在宅勤務時に支給する手当や通信費・電気料金等の課税に関するFAQ」が公表されました。内容についてはリンク先からご確認いただきたいと思いますが、非課税の手当として支払うためには、とても煩雑な作業が必要です。

 確かに、非課税となるのはあくまで実費相当部分のみという従来からの考え方に沿った内容ではあるのですが、FAQにあるようなやり方は労働者の不利益にしかならないと感じます。

(非課税にするためには煩雑な作業で労働者にも余計な手間がかかります。一方、課税手当として支払うならば余計な手間からは解放されますが、実費負担の趣旨で支払われる手当に対して課税されるとなると、これまた労働者にとって不利益です。)

 少し話は変わりますが、通勤手当(自動車等の交通用具で通勤する場合)であれば、単純に通勤距離によって非課税限度額が区分されているのみで、各車両の燃費性能の差などは考慮されていません。

 このような通勤手当の事例を考えると、テレワークで働く場合の通信費や電気代についても、もっと簡便な非課税の基準を設けることが可能なのではないかと思わずにいられません。

 政府がテレワークを呼び掛けており、テレワークに対する後押しが必要な時期にこのFAQの公表ですから、財務省(国税庁)はテレワークにあまり前向きではないのかもしれません。

(深い意味は無く、問い合わせが増えたことに対して粛々と対応しているだけかもしれませんが。)