ボランティア活動への参加に賃金の支払いは必要か?

 近年では「企業の社会的責任(CSR)」について一定の定着が見られるようになり、これを広義に捉えて企業自体が地域のボランティア活動に積極参加している例も見られるところです。

 この場合、当該企業の従業員がボランティア活動に参加することになるわけですが、果たして賃金の支払いは必要なのでしょうか?

賃金とは

 使用者と労働者は、労働契約関係を基に、労働者は使用者に労務を提供し、使用者は労務の提供に対して賃金を支払う、という関係性です。つまり、労務の提供が無い場合には賃金を支払う必要がないことから、従業員のボランティア活動参加が労働に当たるか否かを検証することが必要になります。

賃金の支払いを要する労働とは

 三菱重工業長崎造船所事件(最一小 平12.3.9判決)では、労働時間について「労働者が指揮命令下に置かれている時間」とし、「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」と判示しています。

 さらに、同判決では「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、(中略)当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法の労働時間に該当すると解される」との解釈を示しています。

 また、教育訓練や研修について「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取り扱いによる出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」という行政解釈(昭26.1.20 基収第2875号、平11.3.31 基発第168号)があります。

 以上を踏まえて、ボランティア活動への参加が労働にに当たるか否かを事例ごとに検証してみます。

ボランティア活動への参加が強制されている場合

 ボランティア活動への参加が強制されている場合、ボランティア活動に参加する時間は「労働者が指揮命令下に置かれている時間」に該当するため、賃金の支払いが必要と考えられます。

ボランティア活動への参加が人事評価に影響する場合(表面上は自由参加)

 労働者が指揮命令下に置かれているか否かは客観的に定まるとされています。また、参加しないことで不利益取り扱いを受けるために参加を余儀なくされたときは、指揮命令下に置かれたものと評価することができるとされています。

 以上から、たとえ表面上は自由参加としていても、不参加により人事評価で不利益取り扱いを受ける可能性がある場合、客観的には参加が強制され、あるいは参加を余儀なくされたものとして、指揮命令下に置かれていると評価され、労働時間に該当すると考えられます。従って、賃金の支払いが必要です。

ボランティア活動への参加が客観的にも自由である場合

 この場合、ボランティア活動に参加する時間は「指揮命令下に置かれている時間」には該当せず、労働には該当しないことから賃金の支払いは不要です。

 一方で、ボランティア活動への参加率低下が懸念されるところですが、一つには日頃からボランティア活動の意義について啓蒙・啓発活動を地道に行うことでしょう。あるいは、ボランティア活動の参加に積極的な従業員を社内表彰するような方法も考え得るところです。

 但し、表彰と人事評価は切り離すべきでしょう。また、表彰に過度な金銭の授与は控えるべきと考えます。表彰が人事評価に影響したり、表彰に過度の金銭授与が伴う場合、結局はボランティア活動への不参加により不利益取り扱いを受けるものと評価されるおそれがあるためです。