最低賃金の改定(2022年)

 例年9月末から10月の初旬にかけて各都道府県ごとの地域別最低賃金の改定が行われますが、2022年の改定額について全都道府県の答申状況が出揃いました。手続き的には答申内容について一般からの意見を募った上で、最終的に各都道府県労働局長が決定するという流れですが、反対意見が出されても答申された改定額が変更になることはほぼありませんので、現時点(2022年9月1日現在)で確定額と考えて差し支えないでしょう。

答申された改定額

 今回の全国平均改定額は、過去最大と言われた昨年の28円を上回る31円となります。今回はアフターコロナの物価上昇にウクライナ紛争による物価上昇が重なり、日常生活にも大きな影響が出ていることから仕方がない面のあるところではないかと思います。

 なお、近畿2府4県の具体的な金額は次のとおりです。(全国の答申状況は厚生労働省ホームページでご確認ください。)

  • 滋賀県 927円(昨年896円 引き上げ幅31円) 10/6改定予定
  • 京都府 968円(昨年937円 引き上げ幅31円) 10/9改定予定
  • 大阪府 1023円(昨年992円 引き上げ幅31円) 10/1改定予定
  • 兵庫県 960円(昨年928円 引き上げ幅32円) 10/1改定予定
  • 奈良県 896円(昨年866円 引き上げ幅30円) 10/1改定予定
  • 和歌山県 889円(昨年859円 引き上げ幅30円) 10/1改定予定

 大阪府はついに1000円の大台突破です。また、滋賀県が900円台に突入したため、800円台は奈良県と和歌山県だけになりました。

 答申内容がそのまま全て確定した場合、全国加重平均で961円となります。なお、全国の最高額は1072円、最低額は853円となり、219円の差があります。

ここ10年程の最低賃金引き上げに対する筆者個人の考え

(以下は筆者の個人的な考えですので、読まなくて問題ありません。)

 ところで、「経済財政運営と改革の基本方針2022(令和4年6月7日閣議決定)」には、最低賃金の全国加重平均1000円を目指す旨が述べられていますが、この「1000円」の根拠がさっぱり見当たりません。(あのGoogleで30分以上探してもそれらしい根拠を探し当てることができませんでした。)同基本方針には、「データ・エビデンスを基に、適正な賃金引き上げの在り方について検討を行う。」とまで書かれてあるのですが。

 最低賃金を引き上げる理由として、「賃金が上がれば景気が良くなる」という論調を目にすることがありますが、個人的にはちょっと違うのではないかと思っています。本来であれば、賃金が上昇した分は製品やサービスの価格に反映されるはずです。そうすると、賃金が上がるとモノやサービスの価格が上昇するため、結局は消費行動にほとんど変化は見られないはずです。つまり、「賃金が上がれば景気が良くなる」という論調は、賃上げによるコスト増加を価格に反映することを想定していない(=賃金上昇分は企業の身を削る)論調に思えるのです。

 そんなことを言っていると、「企業が努力して生産性を向上させて賃上げすればよい」と聞こえてきそうですが、生産性が向上するということは労働時間が減少すると考えられます。労働時間が減少すれば賃金の単価が上がっても賃金の総額は増えないですよね(むしろ減ることさえあり得る。)。労働時間が減って賃金があまり変わらないということは、ワークライフバランス的には意義があることですが、「景気が良くなる」ことに繋がるようには思えません。

 はたまた「付加価値の高いモノやサービスを提供する努力をすればよい」という声も聞こえてきそうですが、付加価値の高いモノやサービスを提供できているような企業は、そもそも最低賃金付近で勝負はしていないでしょうから、最低賃金を引き上げても当該企業の賃金アップにはあまり繋がりそうにありません。もちろん、急ピッチで大幅に最低賃金を引き上げるならばこういった企業にも影響が出るでしょうが、韓国での失敗を見る限り、急ピッチで大幅に最低賃金を引き上げることは避けるべきでしょう。

 その他、最低賃金を引き上げた国・地域は景気が良くなっているという研究結果があるようですが、これについても「賃金以外の要素で景気が良くなった → 景気が良くなったので企業が人材を欲する → 人材の需要が高まることで賃金が上がる → 賃金相場が上がったので最低賃金を引き上げることになった」と考える方が自然に思えます。自由経済を主体とするならば、需要と供給のバランスで価格(賃金額)が決まるのが原則であり、とは言え最低限の生活を保障するために最低賃金という制度で原則を修正することに異存はありませんが、景気刺激策として最低賃金制度を濫用するのは違うのではないかと思います。

 以上、取り留めのない乱筆に最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。