ハラスメントの調査目的で秘密裏に録音することは問題?

 セクハラやパワハラの防止が企業に義務付けられていますが、ハラスメントは人目に触れない場面や、業務後の飲み会の場などで発生することも多く、証拠が残らないためにハラスメントがあったかどうかの調査が非常に困難な場合があります。

 ハラスメントの訴えがあった場合、会社としては対応することが必要ですが、加害者である疑いのある従業員にヒアリングしても、証拠が無ければ言い逃れされたり、あるいは全くの事実無根として否定されたりすることが容易に想像できるところです。また、証拠が無いことで冤罪も発生しかねません。

 そこで、証拠収集のために録音することが思いつくわけですが、加害者である疑いのある従業員に了承を得て録音しても意味がありません。そうすると、秘密のうちに録音することが必要になるわけですが、秘密裏に録音することに問題は無いのでしょうか?

民法上の問題はあるか?

 民法では、第709条で「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」としています。

 これを秘密のうちに録音することに当てはめると、「他人の権利または法律上保護される利益」とは「会話の内容(プライバシーに係る内容が含まれるか否か等)」や「録音の場面(自宅等のプライベートな場所であるか否か等)」であり、録音の同意を得ているかどうかという点はあまり影響しないと考えられます。

 ハラスメントの調査をする上で客観的な証拠が必要となるところ、秘密のうちに録音しなければそのような証拠が得られないという場合には、違法となる可能性は低いと考えられます。とは言え、自宅等の私生活上の録音までになると違法と判断される可能性があるため、録音するのは職場や従業員で行く飲み会ぐらいに留めておくべきでしょう。また、録音した内容を第三者に開示したり、漏洩した場合には違法とされる可能性が高いでしょう。

秘密の録音は証拠となるか?

 秘密のうちに録音することの適法性は上記のとおりですが、それでは証拠としての価値はあるのでしょうか。この点、民事訴訟では裁判官に証拠の評価をゆだねる「自由心証主義」が採用されており、秘密のうちに録音したものが証拠として採用されることはない、といったことはありません。

 過去の裁判例では、人格権を侵害するような反社会的な手段(例えば、身体的・精神的事由を拘束するような手段)で録音されたとは言えないとして、秘密のうちに録音したものを証拠として採用した事例があります。

 但し、非公開を約束していながら秘密裏に録音したものが証拠採用されなかった裁判例があり、注意が必要です。この事案では、ハラスメントを調査する委員会において、自由な発言を可能とするために非公開としていましたが、それにも関わらず秘密のうちに録音していたことは、極めて違法性が高いとして、証拠採用が否定されています。