労働基準監督署が行う調査とは?

 労働基準監督署はご存じでしょうか?36協定や就業規則の届出、あるいは労災保険の申請等をする役所のイメージでしょうか?

 もちろんそういった手続きもあるのですが、「監督」という言葉からも分かるように、労働基準(労働基準法や労働安全衛生法等)が守られているか調査し、違反が認められる場合には、その解消を指導する業務も行っています。

 今回は、調査の種類、調査が行われるタイミング、調査の流れやその対応などについて解説します。

調査は全4種類

 労働基準監督署は労働法令が守られているか、事業所の訪問等で調査を行っています。調査の種類は、次の4つがあります。

  • 定期監督
  • 申告監督
  • 災害時監督
  • 再監督

 それぞれについて、もう少し詳しい内容を見てみましょう。

<定期監督>

 定期監督は監督計画に基づいて行う調査で、全ての企業や個人事業が対象になります。監督官が事業所を訪れ、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、就業規則などが点検されます。必要に応じて従業員に対するヒアリングを実施し、記録や規則と実態に乖離がないかの確認を行う場合もあります。また、監督官が事業所を訪問する代わりに、使用者が労働基準監督署に必要書類を持参して行うこともあります。

 厚生労働省によると、2021年の定期監督は122,054件で調査全体の81.7%を占めており、労働基準監督署が行う調査の大半は定期監督であることが分かります。このうち違反件数は83,212件で定期監督全体の68.2%でした。何も違反が無くても定期監督は行われますので変に焦る必要はありませんが、7割弱が何らかの違反を指摘されているのも事実ですので、指摘を受ける覚悟は必要かもしれません。筆者の経験上、定期監督については事前に日程調整の連絡が入ることが多いです。

 定期監督は都道府県ごとに毎年度、重点項目(労働時間、最低賃金、有給休暇、安全衛生など)を定めて行われます。重点項目が公表されるわけではありませんが、大きな法改正があった際には、法改正に対応しているかの確認があると考えて間違いないでしょう。

 また、各都道府県労働局から毎年示される行政運営方針からある程度の調査内容を推測することが可能かと思います。令和5年度の大阪労働局を例に挙げると、育児休業、最低賃金、長時間労働といった単語が出てきますので、これらに関係する項目を重点的にチェックされるかもしれません。

<申告監督>

 申告監督は、労働者から労働基準監督署に違反(が疑われる事実)の申告があった場合に行われます。申告監督の場合は、違反が隠蔽されることを避けるために、事前連絡なしに抜き打ちで行われることも多いです。この際、労働基準監督官の突然の来訪に焦るあまり、追い返そうとはしないで下さい。労働基準監督官は、強制的に会社に立ち入る調査する権限を持っていますし、労働基準監督官の心証を悪くすることは得策ではありません。

<災害時監督>

 災害時監督は、労働災害が発生したときに随時行われます。大きな事故で救急車や警察が出動した場合や、死傷病報告・労災給付の申請をした後に行われたりします。大きな事故や怪我は災害時監督が行われる可能性が高くなります。その反対に筆者の経験上は、軽微な怪我がまれに発生するぐらいでは、災害時監督が行われることはないでしょう。災害時監督の場合は事前に日程調整の連絡があることが多いように思います。

<再監督>

 再監督は、労働基準監督署の改善指示を受けて実際に改善されたのかを確認するものです。筆者の経験上、申告監督や災害時監督の後に再監督が行われる確率は高いように思います。また、定期監督であっても、改善指示の内容が賃金不払いや長時間労働の場合は、再監督の確率が高いように思います。再監督の場合の日程調整は、改善指示の内容や改善指示に対する態度、改善指示が出されて以降の経緯等によって、有ったり無かったりの印象です。

社会保険労務士の同席も可能

 労働基準監督署の調査には、社会保険労務士が同席することも認められます。労働基準監督官の質問内容を誤解したり、焦るあまり事実と異なる回答をするようなことがないように、顧問社労士がいる場合は、同席をお願いした方が良いでしょう。

改善指示はしっかり改善して報告しましょう

 調査の結果、何らかの是正または指導が必要な点があれば、改善指示が出されます。改善指示にはいくつか種類があり、法令違反ではないものの一定の改善を行う必要のある場合等は「指導票」が、法令違反の事実が確認された場合は「是正勧告書」が交付されます。また、労働者に緊迫した危険が迫っている場合は、設備の停止や作業の即時停止を命じる「使用停止等命令書」が交付される場合もあります。

 改善指示を受けた場合は、問題を解決したうえで、期日までに報告するよう求められます(指導票の場合でも報告が求められます。)。いつまでも改善報告をしないでいると、その後何度も調査が行われますし、その度に改善指示を無視していると書類送検されるというのは割とある話です。(労働基準監督官には特別司法警察職員の権限が与えられており、逮捕や送検をすることができます。)

 労働基準監督署への報告は、社会保険労務士に依頼することが可能です。