パワハラの典型例 その3
パワハラの典型例 その1ではパワハラ指針に示されたパワハラの6類型及び6類型の内、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」の具体例をご紹介しました。また、パワハラの典型例 その2では「人間関係の切り離し」と「過大な要求」について具体例をご紹介しました。
今回はパワハラ6類型の最後の2つ、「過少な要求」と「個の侵害」の具体例をご紹介します。
5.過少な要求
<退職させるために仕事を与えない>
会社は、ITを積極的に導入することにより購買部門の効率化を推進することを決定したが、在庫管理の業務に長年従事している高齢の従業員2名がIT導入の障害になると考えた。しかし二人の解雇は難しいと判断した会社は、当該従業員2名に対してお茶出し、掃除、草むしりなどしかさせないようにし、二人の居場所を無くして自ら退職を申し出るように画策した。
お茶出し、掃除、草むしり等の仕事だけをさせることは、在庫管理業務に長年従事していた二人の経験や能力とはかけ離れた程度(レベル)の仕事を命じたものと言えます。また、教育訓練や他部署への配置転換等の検討すら行われておらず、退職させることを目的としてお茶出し等だけをさせることに業務上の合理的な理由があったとも考えられないことから、過少な要求によるパワハラに該当すると考えられます。
6.個の侵害
<部下の個人的な趣味をやめさせる>
部下Aは競馬が非常に好きで、馬券を毎週1万円ほど購入していた。ギャンブル嫌いで有名な課長Bはそのことを知って以後、部下Aに対して「競馬の予想で頭を使うぐらいなら仕事でもっと頭を使え」などと言って、競馬をやめるように部下Aに繰り返し迫った。なお、部下Aの仕事ぶりに特段の問題は無い。
会社の信用を失墜させるような行為や業務上の支障が生じているような場合であれば、私生活上のことであっても会社が介入することができる余地がありますが、馬券を毎週1万円ほど購入する行為が会社の信用を失墜させるとは考え難いですし、業務上の支障も生じていないことから、課長Bの言動は私的なことに過度に立ち入るものとしてパワハラに該当すると考えられます。
まとめ
以上、3回に渡ってパワハラの6類型をご紹介してきました。パワハラについては「パワハラ該当の判断が難しい」という点で頭を悩まされます。発言の内容、発言・行動の状況、発言・行動の頻度等々、個別の事案ごとに判断せざるを得ないでしょうし、100%の自信をもって判断できるようなことは滅多にないものと思われます。
線引きが難しいと感じるのは会社側だけでなく、従業員側も同じです。パワハラ防止研修を定期的に行ったとしても、それでパワハラの発生を100%防ぐことは難しいでしょう。
そうすると、会社としてはパワハラが発生したとき、または発生しそうなときに「早期発見・早期対応」することで問題が大きくになる前に解決を図る(※)、ということも非常に重要です。その為には気軽に相談でき、かつ、ある程度の信頼をしてもらえるような社内体制の整備が求められます。
少なくとも「相談の窓口」を明らかにしておかなければ気軽に相談することは難しいでしょうし、「ハラスメント調査の進め方」を予め想定しておかなければ、相談を受けても調査を進められなかったり、調査の過程でプライバシーが侵害される等の問題が起こりかねません。
そもそも労働施策総合推進法により2020年6月1日からパワハラ相談窓口を設置することが義務化(中小企業は2022年3月31日までは努力義務)されているわけですが、相談窓口の設置がまだの場合には、この機会に相談窓口を設置し、または相談窓口設置の検討を始めてみて下さい。
※相談を受けて調査した結果、パワハラではないとの判断になったとしても、無駄なことではありません。パワハラではないとしても、人間関係に多少の問題が発生していると考えられるので、人間関係を調整することにより仕事のパフォーマンスが上がるという効果は期待できるでしょう。