人員整理の手段と留意点について
雇用調整助成金の特例措置(各要件の緩和や支給上限額の引き上げ等)が2021年1月以降は段階的に縮小される見込みが厚生労働省から公表されています。それを受けて、助成金を活用した雇用維持からの出口戦略を検討し始めた企業が多くなっているように感じます。
出口戦略は色々とありますが、人員整理を検討される場合もあるかと思いますので、その手段と留意点について簡潔に解説します。
<人員整理の手段>
1.派遣労働者の契約終了
派遣労働者を受け入れている場合、派遣契約期間の満了を以って派遣契約を終了させることは特段の問題を生じません。但し、中途解約をする場合には、少なくとも30日前の予告か30日分の平均賃金に相当する金額の損害賠償を支払う必要があります(派遣先指針第2の6の(4))。なお、中途解約した場合に残りの期間の派遣料金全額を支払う特約が定められている場合などもありあますので、まずは派遣元企業とよく相談するようにして下さい。
2.希望退職者の募集
何らかのインセンティブを設けて退職希望者を募ります。インセンティブとしては、退職金の支給(退職金制度がある場合は退職金額の上乗せ)や転職支援等が一般的です。募集人数、募集期間、希望退職を募る範囲や(部署・年齢等)辞めて欲しくない人材に対する引き留め策についても予め検討しておきましょう。退職希望者が自ら応募してくるものですので、トラブルが生じることは基本的にありません。
なお、希望退職の予定人員に達しない場合に整理解雇を実施する場合、その旨を通知しておきましょう。(通知しておかないと、希望退職者の募集が後述する解雇回避の一環として行われたと認められない可能性があります。)
3.合意による退職(退職勧奨)
従業員側から退職願を出して「退職のお願い」をすることができるように、事業主側から「退職のお願い」をすることもできます。この事業主側からする「退職のお願い」は「退職勧奨」と呼ばれています。業績不振により退職勧奨を行う場合は、インセンティブを設けるケースが多いでしょう。
退職勧奨を行って従業員がそれに応じた場合は、双方が合意の上で雇用契約を終了させることになりますので、基本的には問題が生じることはありません。
但し、退職の合意を強要した場合(執拗に退職の勧奨を迫る、面談が長時間に及ぶ等)や、退職の合意が虚偽の情報に基づいて行われた場合(解雇になる理由が無いにもかかわらず、解雇されるかのように誤った情報を伝える等)は、退職合意の無効や取消を争われることがありますので、注意してください。
なお、整理解雇を予定しているのであれば、その旨を通知しておきましょう。(理由は希望退職を募る場合と同じ。)
4.整理解雇
整理解雇の有効性については4つの要素を総合的に勘案して判断されます。従って、整理解雇を行う場合は、下表の4要素を念頭において進めるべきです。
①人員整理の必要性 |
客観的に人員整理しなければならない程の経営危機に陥っている |
事業の撤退や事業所の閉鎖などの事情がある 赤字部門の業績改善をする必要性がある |
②解雇回避の努力をしたか(全てを実施しなければならないわけではない) |
経費削減・不要資産の売却、役員報酬の削減、残業の抑制、新規採用の抑制、休業の実施、希望退職や退職勧奨が行われているか |
配置転換や配置転換のための教育訓練、出向などの雇用確保措置が取られているか |
③人選の合理性 |
客観性・合理性のある選定基準によって人選する必要があり、恣意的な人選は認められない。 <客観性・合理性が認められ得る例> ・人事評価が一定水準以下 ・勤怠状況(遅刻や欠勤が一定数以上ある等) ・雇用形態(無期雇用者よりも有期雇用者を優先する等) ・家計への影響(年金が支給される65歳以上を優先する等) 注:個別事案ごとに判断されますので、上記に示した基準であっても客観性・合理性が認められないということもあり得ます。 |
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④手続きの妥当性 |
(労働組合がある場合)労働組合と誠実に協議・交渉を行っているか。 (労働組合がない場合)人員整理に必要性やその内容を十分に説明し、納得を得るための努力をしているか。 注:労働組合がある場合でも、従業員への十分な説明をすることが望ましいです。 |
整理解雇の4要素は抽象的な内容であり、事案ごとにどの程度のことが求められるのかが変わります。過去の裁判例を参考にしながら対応せざるを得ませんので、専門家と相談しながら進めることをお勧めします。
5.内定取消
採用内定は「特約付きの雇用契約」という法的性質をもっているので、経営状況の悪化を理由として内定取消を行う場合、基本的には整理解雇と同じように考えることになります。但し、人選の合理性を検討する上で、内定者を優先して人選することについては一定の合理性があると考えられます。
なお、採用内々定の段階では「特約付きの雇用契約」が発生していないと考えられるため、一般的には法的な制限を受けることはありません(例外的に、内定通知書を授与する直前に内々定の取り消しを行い、損害賠償が認められたケースがあります)。
6.有期契約労働者の雇止め(期間満了による終了)
有期雇用契約は、契約期間が終了した時点で雇用契約も終了することが原則です。しかしながら、労働契約法第19条によりこの原則が修正されており、以下の事情がある場合に行う雇止めは、期間の定めのない労働者を解雇するのと同等の扱いとなります。
- 雇用契約が反復更新されており、かつ、契約更新の手続きが厳格に行われていない等、社会通念上、雇止めが解雇と同視できる(=形式上は有期雇用契約の形を取っているが、実態としては無期雇用契約と同じかそれに近い状態)と認められる場合
- 雇用契約が反復更新されている等、有期契約労働者が契約の更新を期待することに合理的な理由があると認められる場合
従って、上記いずれかの事情がある場合には安易に雇止めをするのではなく、整理解雇の4要素を念頭において雇止めの検討をするべきです。
なお、有期雇用契約の中途解約(=期間満了よりも前に契約を終了させる)は、無期契約労働者の解雇よりも認められ難い(労働契約法第17条)ので注意しましょう。