従業員に辞めてもらいたい 退職勧奨とは?

辞めて欲しい従業員がいる場合にとる手段は解雇だけ?

問題行動を起こした従業員や能力不足の従業員、または事業再編により余剰人員となる従業員など、会社側としては辞めてもらいたい従業員が出てくる場合があります。このような場合に「解雇」が思いつきがちですが、実際に解雇するとなると色々と制約があり、思うように進まないことが多いものです。また、解雇した後で元従業員から解雇無効の訴えや地位確認の請求を起こされることもあります。

辞めてもらいたい従業員がいる場合に、会社としては解雇以外に「退職勧奨」という手段を取ることもできます。退職勧奨は、「退職をしたらどうか」と勧める⾏為であり、従業員がこれに応じるかどうかは⾃由です。
退職するかどうかの最終決定において、従業員本⼈の⾃由意思が確保されている限り、それが辞職を勧める趣旨であろうと、希望退職への応募を勧める趣旨であろうと、あくまで選択権は従業員本⼈の側にあります。そこまでの過程において会社からの働き掛けがあったからといって、それのみで解雇と評価されることはないとされています。

退職勧奨はどの程度まで許されるか?

退職勧奨は会社側から従業員に対して退職を促す行為ですが、社会通念上相当と認められる程度をこえて、従業員に対して不当な心理的威迫を加えたり、その名誉感情を不当に害する言辞を用いたりした場合には、不法行為となり損害賠償責任を負うことにもなりかねません。

例えば、退職することについて「はい」と言うまで長時間にわたって説得を続ける、又は本人が退職を拒否する意思表示をしたにもかかわらず、その後も繰り返し退職するように説得する、あるいは複数人で取り囲んで説得するなどは認められません。

したがって、退職勧奨を行う場合は、説得の手段、態様、回数、時間の長さなどに気を配るとともに、本⼈の⾃由な意思による退職の申し出が可能な状況を維持するように配慮する必要があります。

退職が取消・無効となる場合とは?

退職勧奨を行い、その結果、従業員が退職を申し出た場合であっても、その退職が無効となる場合があります。

  • 強迫による取消が認められる場合

会議室に長時間に渡って閉じ込めて退職勧奨を行い、従業員におそろしさを感じさせた上で退職の申出をさせたと認められるケースにおいて、民法96条の定めにより取消が認められた事例などがあります。

  • 錯誤による無効が認められる場合

懲戒解雇に相当する懲戒事由が無いにもかかわらず、懲戒解雇が行われるかのように従業員に説明した上で自主退職を促し退職届を提出させたケースにおいて、民法95条の定めにより無効となった事例などがあります。

その他の留意点について

最近では、スマートフォンやICレコーダーなどで気軽に録音ができるようになっていますので、従業員は録音していると思って退職勧奨を進めるべきでしょう。また、後から言った言わないで争いにならないために、会社側も録音をしておくべきでしょう。その際、従業員に対して、お互いのために録音する旨の断りを入れておくことがより望ましいと考えます。

また、退職勧奨を円滑に進めるために、退職金の支給や上積み、転職支援サービスの提供など、退職に応じた場合には従業員にとって有利となる条件を付ける場合もあり、必要に応じて検討してみてもよいでしょう。