定年後再雇用 不合理な労働条件にならないように注意!

 従業員の定年を定める場合は、定年年齢を60歳以上とする必要があり(高年齢者雇用安定法第8条)、65歳未満の定年を定めている場合には原則として、65歳までの継続雇用制度が義務付けられています。(高年齢者雇用安定法第9条)

 2021年4月1日からは70歳までの就業機会を確保することが努力義務化されることになっており、今後ますます高齢者雇用に注目が集まることになりそうです。

 そこで今回は、定年後再雇用をする際の注意点について、解説します。

定年後再雇用の現状

 コロナ禍前には人手不足が顕在化し、高齢者雇用のニーズが高まっていました。使用者側にとっては、定年まで長年勤めてきた社員なら社風にも馴染み、業務に関する知識・経験が豊富で戦力として計算できます。一方で労働者側にとっても慣れた職場で安心して働くことができるうえに、年金の支給が始まるまでの収入を安定させることができるので、双方にとって魅力のある働き方といえます。

 定年退職した社員を再雇用する場合、有期の雇用契約であったり、所定労働が正社員よりも短いパートタイム的な雇用契約であったりすることがほとんどでしょう。そして、正社員ではなくなったということで賃金の引き下げが行われることが多いと思いますが、そのやり方には注意が必要です。

同一労働同一賃金は定年後再雇用でも

 2021年4月1日からは、いよいよ中小企業でも同一労働同一賃金の規制の適用を受けることになります。(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条、第9条)

 同法では次の1~3を総合的に考慮したうえで、有期雇用労働者又はパートタイム労働者の労働条件が、通常の労働者(一般的には正社員)と比較して不合理なものであってはならないとされています。

  1. 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
  2. 当該職務の内容および配置の変更の範囲
  3. その他の事情

 定年後再雇用では有期雇用又はパートタイムのいずれか又は両方に該当することがほとんどでしょうから、定年後再雇用される労働者の労働条件を定める際には、正社員と比較して不合理な労働条件となっていないか確認することが必ず必要となります。

 定年後に再雇用するにあたり、職務の内容を変更したり、所定労働を短縮したりすることがあると思いますが、それらの変更に伴って行われる賃金の減額であれば特に問題はありません。(わずかな変更にもかかわらず大幅に賃金を減額するような場合は問題ありですが。)

 一方で、単に正社員でなくなったからという理由で賃金を減額する場合は、不合理な待遇差となる可能性があります。

 もちろん、直ちに不合理な待遇差となるわけではなく、先程確認した「職務の内容」「変更の範囲「その他の事情」を総合的に考慮して判断することになります。長澤運輸事件(最二小 平成30年6月1日判決)では定年再雇用という事情は「その他の事情」に該当すると判示していますし、その他にも労使交渉の経過なども「その他の事情」に該当するとしています。

 従って、定年後再雇用を理由として行われる賃金の減額について、一定程度までは許容されると考えても差し支えはないと思われます。

不合理な労働条件にならないラインは?

 それではどの程度までが許容範囲となるかが問題ですが、参考になる裁判例として名古屋自動車学校事件(名古屋地裁 令和2年10月28日判決)をご紹介します。

 この事件では、教習指導員として勤務していた元正社員が定年後再雇用されるにあたり、賃金が正社員当時の60%を下回ることが旧労働契約法第20条に違反する(注)として争われました。

注:労働契約法20条は有期契約労働者の労働条件が期間の定めのない労働者と比較して不合理であってはならない旨を定めていましたが、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律に引き継がれる形で現在は削除されています。

 労働者は定年後再雇用されるにあたり、主任の役職からは外れたものの、その他の職務内容に変更はありませんでした。

 名古屋地裁は、定年後再雇用の賃金額が同社の若年正職員(入社1年以上5年未満)の賃金額すら下回ることを指摘した上で、労働条件について交渉等がされた形跡も無いことから、不合理な労働条件であるとしました。

 どの程度のラインであれば不合理な労働条件と判断されるのかについては、今後さらなる裁判例の蓄積を待つしかありませんが、定年前後で職務内容に変更が無いのであれば、少なくとも4割を超える賃金の減額は避けるべきでしょうし、新卒社員の賃金を下回ることも避けるべきというのが筆者の考えです(注)。

注:これらの基準を上回っていれば不合理な労働条件に該当しないことを保証するわけではありません。