頻繁に居眠りする従業員への対応は?

 みなさんは仕事中に居眠りしてしまった経験はありますか?なんとなく参加させられている会議中、真夏の倉庫整理を終えて冷房の効いた執務室に戻ってほっと一息ついたとき、深夜勤務中のふとした瞬間等々、居眠りしてしまったことが一度ぐらいはある人が多いのではないでしょうか。

 居眠りも一度や二度であれば軽い注意ぐらいで済まされるでしょうが、頻繁に居眠りするとなると話は違ってきます。会社としてはどうにかしたいと思うのが当然ですが、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか?

従業員は労働契約に基づき職務専念義務を負っている

 労働契約とは、労働者は労働を提供し、使用者は提供を受けた労働に対して賃金を支払うことを約束する契約です。労働契約上、労働者は労働を提供することが求められているわけですから、労働契約の内容に沿って職務に専念する義務が生じます。これを一般的には「職務専念義務」と呼びます。

居眠りをして職務専念義務を果たせているか?

 一般的な労働契約では所定労働時間が定められており、その時間内は労働を提供する義務が生じます。居眠りをしている時間は労働を提供できていないわけですから、職務専念義務を果たせていないと言えるでしょう。

 他方、売上高や契約件数を達成することが求められる一方で、労働時間は労働者の自由に任せるといった労働契約もあり得るところです。このような場合はどれだけ居眠りをしていようとも、結果として売上高や契約件数を達成しているならば、契約の趣旨に合致する労働を提供しているとして、職務専念義務を果たしていると考えられる場合もあるでしょう。

居眠りの原因は何か?

 所定労働時間内の労働の提供を求める一般的な労働契約であって、所定労働時間内に居眠りをしている場合には職務専念義務を果たしていると言えず、何らかの処分ができそうに思えます。しかし、処分を下す前に居眠りの原因について確認をしておきましょう。

<居眠りの原因が使用者にある場合>

 例えば、緊急対応で深夜遅くまで労働させた後の勤務中に居眠りするケースや、連日残業が続いて十分に休息が取れていない状況での居眠りするケースもあり得るところです。このような場合、居眠りの原因は休息を十分に確保することができないような業務指示をした使用者側にあると考えられるため、居眠りに対して何らかの処分をすることは不適当です。

<居眠りの原因が労働者の病気等にある場合>

 病気によっては日中に強い眠気に襲われるものがあります。代表的なものとしては、睡眠時無呼吸症候群(質の良い深い睡眠がとれない)や、ナルコレプシー(脳内の睡眠調節機能に問題があり、夜間に十分な睡眠をとっていても昼間に強い眠気に襲われる)などがあります。また、薬によっては眠気を強く催すものがありますので、それらの服用が原因で居眠りしている場合もあります。

 居眠りする労働者の生活態度に問題が無ければ、病気等が原因となっていることも考えられますので、何らかの処分を行う前に、まずは病院で診察を受けることや、主治医への相談、産業医の診察等を提案・指示するべきでしょう。

<居眠りの原因が労働者の自己管理にある場合>

 労働者が徹夜で遊んだ挙句に居眠りすることを繰り返しているような場合は、職場内秩序の維持・回復を図るため積極的に処分を講じるべきです。(単発の居眠りであれば注意・指導で十分でしょう。)

居眠り中の賃金控除は可能か?

 特殊な事例(完全月給制など)を除き、ノーワーク・ノーペイの原則によって、労働の提供が無い時間に対して賃金の支払いは不要です。居眠りしている間は労働の提供がされていませんので賃金控除は可能ですが、賃金控除するためには居眠りの時間を具体的に特定することが必要です。

 しかし、居眠りの時間すべてを完全に把握することは難しいと思いますので、居眠りを把握できた時間分の賃金控除に加えて、懲戒処分としての減給の制裁を行うことも選択肢の1つです。

懲戒処分は可能か?

 先にも述べたように、居眠りを繰り返す労働者に対して、職場秩序の維持・回復を図るため懲戒処分を行うことは可能です。その際に気を付けることは、①居眠りの記録、注意・指導を行った記録、懲戒処分を行った記録を残すことと、②最初から重い懲戒処分にはしないことです。

 懲戒処分について争うことになった場合、使用者は懲戒処分の原因となった事実を主張・立証する必要がありますので、記録が重要となります。

 また、最初から重い懲戒処分にした場合はほとんどが認められません(横領事件や背任事件などはいきなり重い懲戒処分でも認められることがそれなりにあります。)ので、軽い懲戒処分から始めて徐々に処分を重くしていくことをお勧めします。

解雇は可能か?

 解雇には懲戒解雇と普通解雇があります。前者については懲戒処分の最終段階となりますので、軽い懲戒処分から徐々に処分を重くしていくという手順をしっかり踏んだうえで、それでも居眠りが続くならば最終的に懲戒解雇とする可能性はあるかと思います。但し、懲戒解雇は使用者が労働者に与える究極の罰となることから、懲戒解雇が認められるハードルは相当高くなります。

 後者の普通解雇は、労働契約が正常に履行されないことを原因とした契約解除の位置付けになります。居眠りを繰り返すということは正に労働契約が正常に履行されていないわけですから、居眠りが頻繁に繰り返されるようであれば(たとえ居眠りの原因が病気等にあったとしても)普通解雇が可能な場合もあるでしょう。なお、居眠りの原因が病気等にある場合は、普通解雇に先立って休職、勤務時間帯の変更、勤務時間の短縮、職務の変更、退職勧奨等を優先すべきと考えます。