社員紹介制度で紹介者である従業員に報酬を支払うことは問題か?
コロナ禍の影響で採用難だった状況は少し落ち着いていますが、コロナ禍が落ち着いた後は再び採用難になることは目に見えています。(少子高齢化の進展に伴って労働力人口が減少しているため。外国人労働者を増やす動きもありますが、今のところ課題解決の決定打には程遠い状況です。)
採用難を打開する手段として「社員紹介制度」を設ける場合があります。(採用難の打開ではなく、ミスマッチの防止や採用後の定着を狙って、あるいはこれら複合的な目的で社員紹介制度を設ける場合もあります。)
社員紹介制度を積極的に運用するために、多くの場合、インセンティブとして何らかの報酬を与えることが思いつくと思いますが、法的に問題はないのでしょうか?
中間搾取の排除に抵触するか?
労働基準法第6条では「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」とされています。
ここで言う「業として」とは、「営利を目的として、同種の行為を反復継続することであり、例え1回の行為であっても、反復継続して利益を得る意思があれば営利目的となり、主業・副業を問わない」とされています。(昭23.3.2 基発381号)
社員紹介制度は、一般的に「業として」行われるものではないと考えられるため、報酬を支払ったとしても中間搾取の排除に抵触することはないと考えられます。但し、形式的には社員紹介制度であっても、実質的には業として行われているとみなされるようなものは、中間搾取に該当すると考えられます。また、報酬の額が過大な場合も中間搾取に該当するおそれがあるでしょう。
職業安定法に違反するか?
職業安定法第40条では「労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。」とされています。
「賃金、給料、その他これらに準ずるものを支払う場合(中略)を除き」とされていることから、賃金としていくらか支払うことは問題ありません。(但し、中間搾取の排除の観点から、過大な金額とすることは避けるべきです。)
なお、職業安定法第39条では「募集に応じた労働者から、その募集に関し、いかなる名義でも、報酬を受けてはならない。」と定められておりますので、募集に応じた労働者を経由して紹介者に報酬を支払うことは違法となります。素直に賃金として支払うようにしましょう。
賃金として支払う場合の注意点
賃金には「通貨払いの原則」(労働基準法第24条)があるため、法令で認められているもの以外には、金券、旅行券、ギフトカード等の現物で支給することはできません。
賃金とは「名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」(労働基準法第11条)とされていることから、賞与で支払うことも可能です。
賃金の決定、計算および支払いの方法は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、社員紹介制度の報酬を賃金として支払う場合には、就業規則への記載が必要です。(労働基準法第89条)なお、就業規則の作成義務が無い事業場であっても、賃金に関する事項は労働条件通知書等によって明示する義務があります。(労働基準法第15条)
人事評価に反映させることは問題ないか?
社員紹介制度に基づいて紹介があった場合に、人事評価で考慮することは、基本的には可能と考えます。但し、評価制度が定められている場合は、紹介があった場合に評価へ反映されることを就業規則等へ定めることが必要と考えられます。(評価制度と賃金は関連していることが通常と考えられ、そうすると評価制度は賃金の決定方法の一部となり、賃金の決定方法は就業規則等に定める必要があるためです。)