御社の就業規則は自社の実態に沿った内容になっていますか?
労働基準法では、常時10人以上の労働者を雇用する使用者に対して、就業規則の作成と届け出を義務付けています。逆に言えば、常時10人未満の労働者を雇用する使用者には就業規則の作成・届出義務は無いということですが、労使間トラブルの予防や労使間トラブルが発生してしまったときに会社が身を守るために、労働者が10人未満であっても就業規則を作成しておくべきです。
とは言え、インターネットでダウンロードしたテンプレートなどをそのまま流用して就業規則を作成すると、却ってトラブルの原因になりかねません。そこで今回は、流用して作成した就業規則の危険性に触れたいと思います。
流用でうっかり見落としは極めて危険
就業規則は労働条件を定める文書であるため、自社の実情に沿った内容になっていることが大原則です。
しかし、多くの経営者にとって就業規則を作成する時間を十分に取ることは難しいため、インターネットから拾ってきたテンプレートや他の会社の就業規則をそのまま流用しているケースも少なくありません。
ところが、これらは最新の法令に対応していない場合がありますし、何より自社の実態に則しているとはとても言えないでしょう。就業規則は労使の関係を規律するためにあるものですが、法令や自社の実情に即していない就業規則は却ってトラブルの原因になってしまいます。
ここで事例による説明をしてみたいと思います。割増賃金に関して「所定労働時間を超える労働に対して割増賃金を支払う」と定めていることがあります。これ自体は何ら問題のない規定ですが、その意味を正しく認識していないとトラブルになりかねません。
割増賃金について、労働基準法では、8時間を超える労働に対して割増賃金を支払う必要がある旨を定めています。(※変形労働時間制を採用している場合はこれと異なる場合があります。)
所定労働時間が8時間の会社であれば「所定労働時間を超える労働に対して割増賃金を支払う」と定めていたとしても、労働基準法に定める「8時間」と一致するため支障がありませんが、所定労働時間が8時間未満の会社については問題が発生する場合があります。
例えば所定労働時間が7時間の会社の場合、就業規則に定めるとおりに所定労働時間である7時間を超える労働に割増賃金を支払っていれば何ら問題ありませんが、8時間を超える労働についてのみ割増賃金を支払っている場合は、7時間超8時間以下の1時間分だけ割増賃金が不足していることになります。
このように、会社の意図や実態と就業規則の記載内容にずれがあると問題が生じるのですが、テンプレートや他社の就業規則を流用した場合、細かい点が見落としがちになります。
なお、就業規則の記載と自社の実情がかけ離れてしまっていることがよくあるポイントとして、次のようなものがあります。
- 休暇・休業・休職等が過剰な内容になっている。
- 自社で支払っていない手当が記載されている、または自社で支払っている手当が記載されていない。
- 手当の内容や手当を支給する対象が曖昧で実態とずれている。
- 懲戒処分の実施にあたって過剰に厳格な手続きが定められている。
- 変形労働時間制のような時間管理をしているのに、就業規則に変形労働時間制を定めていない。
就業規則の適用範囲は明確になっていますか?
就業規則について、誰に適用されるのか明確にしておくことは非常に重要です。明確になっていないばかりに、正社員向けに作ったつもりの就業規則がパート・アルバイトにも適用されてしまうなんてことにもなりかねません。
誰に適用されるのか明確にする際は、従業員区分の定義を明確にすることも大切です。「この就業規則は正社員に適用する。」と定めても、正社員の定義が整理されて明確になっていなければ、「私も正社員に該当するはずなので(または、私を正社員ではないとする理由はないので)、正社員の就業規則を私にも適用するべきだ。」などと従業員から主張されかねません。
その他、就業規則の中で「従業員」「労働者」「社員」「正社員」等が区別なく使用されているものもよく見受けられます。これらの単語は適切に用いないと就業規則の適用範囲が意図したとおりになりませんので、就業規則を作成する際は単語レベルで注意を払う必要があります。さらには、いわゆる「てにをは」にも気を配らなければなりません。また、「○○は別に定める××規程に定める。」としているにもかかわらず、××規程を作成していないというのもよくあり、これもトラブルの原因になります。
なかなか伝わりにくいことですが、就業規則の作成には高い専門性が必要とされますので、費用は掛かってしまいますが、社会保険労務士等の専門家を活用することをお勧めします。