新入社員に問題行動がある場合の取扱いを事例から考える

 大学を卒業してから1年間の就職活動を経て新入社員として入社したものの、入社から半年で解雇となり裁判で争った事案を基に、問題社員の取扱いについて考えたいと思います。

裁判所が認定した事実関係(東京地裁 令和2年9月28日判決)

4月A氏入社(3ヶ月の試用期間あり)
A氏はマナー研修で「やりたくないので、やらなくていいですか」「こんなことをして営業はお客さんをだますのですよね」の発言。
A氏は作業研修で、作業が上手くいかないときに大声を出して工具を投げた。「この研修内容は自分の仕事ではない」の発言。
5月A氏がB事業部に配属
6月A氏の上司となったCは、A氏の勤務態度が悪く試用期間後の正式配属は難しいと感じたものの、多忙であったことから具体的な注意指導は行わなかった。
管理次長Dが退職勧奨を3回行ったが受け入れられず、試用期間を7月末まで延長することを通知し、双方で合意。
7月A氏が会議室に一人で配置されるようになり、具体的な業務は命じられず、簿記の自習を毎日行った。
管理次長Dが4回目の退職勧奨を行った。
管理次長Dと役員Eの2名で5回目の退職勧奨を行った。その際、役員Eが「苦痛じゃない?俺なら苦痛だけどね。」「退職勧奨に持ってくために(中略)それを耐えてんのは大したもんだよ。」の発言。
試用期間を8月末まで再延長することで合意。
8月試用期間を9月末まで再々延長することで合意。
会社はA氏を9月30日付で解雇することを決定し、解雇予告をした。
9月A氏は9月30日付で会社を解雇された。

 事実関係からは、A氏は協調性がなく、自制が効かず、考え方も偏っているように見え、使用者がした解雇の判断も仕方が無かった側面もあったかと思います。

 A氏は、解雇後に試用期間の延長と解雇が無効であるとして会社を訴え、裁判所はA氏の訴えを認め、試用期間の延長と解雇を無効としました。

裁判所の判断根拠は?

<試用期間の延長について>

 この事案の場合、試用期間の延長は就業規則に定められていませんでしたが、これについて裁判所は「労働者の利益のために、その能力や適性について調査を尽くす必要がある等のやむを得ない事情がある場合には、(試用期間の延長が就業規則等に定められていなかったとしても)試用期間の延長も認められる」と判示しています。

 ところが試用期間の延長をして行われたのはA氏を会議室に一人置いての自習であり、また役員Eの発言から辞めさせるための嫌がらせであったことが明らかであり、試用期間を延長せざるを得ないような、やむを得ない事情があったとは認められず、試用期間の延長が無効とされました。

<解雇について>

 一方、解雇に関してA氏の問題点は認めたものの、社会人経験の無いA氏に対する指導・教育が行われておらず、A氏に問題点があったことのみをもって解雇事由に当たるとは言えないとして、解雇についても無効としました。

 新卒社員の場合は入社してすぐに一人前の仕事ができるわけではないことを前提に、職務を限定せずに採用していることから、試用期間中にスキル等が足りないことが分かっても、会社が指導・教育(配置転換を含む)することを求められます。そして、指導・教育に手を尽くしてなお、会社の従業員として不適格である場合にようやく解雇が認められることになります。

まとめ

 試用期間の延長について、裁判所は「不安定な身分が延長される」という考え方を持っています。そのため、試用期間の延長があり得るのであれば、予めその旨を明示しておくべきで、明示が無い場合に延長が認められるのは、試用期間の目的を果たすためにやむを得ない事情がある場合のみであるためご注意ください。

 また、試用期間は本来、スキル・能力・適性・やる気などを試す期間であり、これらが会社の要求水準に達しない場合には解雇もあり得るところ、新卒社員の場合は指導・教育に手を尽くしてなお、会社の従業員として不適格である場合にようやく解雇が認められることが通常であり、指導・教育に手を尽くし果たした頃には試用期間が終了していることがほとんどでしょう。従って、新卒社員を試用期間中に解雇するケースはあまり多くありません。

 なお、必要な要件を明らかにした上で経験者を採用した場合では、試用期間中に必要なスキル等が無いと分かれば解雇も比較的認められやすくなっており、新卒社員の場合とは分けて考える方がよいでしょう。