甘く考えないで 転倒災害!

 突然ですが、厚生労働省がいま最も力を入れている職場の安全活動は何かご存じでしょうか?

 転落事故の防止? 腰痛予防? 機械によるはさまれ・巻き込まれ防止?

 確かにこれらの事故は発生件数が多く、予防にも力を入れているのは間違いありませんが、残念ながら不正解です。実はいま最も力を入れているのは転倒災害の防止なのです。

転倒災害は発生件数が最も多く、休業も長期化傾向に

 令和2年度の労働災害統計によると、休業4日以上の全死傷災害131,156件に対して転倒災害は30,929件(24%)発生しています。

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 また、少し古い情報になりますが、休業4日以上の転倒災害の内、休業1か月以上が61%(厚生労働省資料 転倒災害について)となっています。

厚生労働省 STOP!転倒災害プロジェクト 転倒災害について より抜粋

 つまり、転倒災害は「発生頻度が高い」上に「休業が長期化する傾向が強い」災害と言えます。

 転倒災害のイメージと統計上の数字が頭の中で一致しない方も多いのではないかと思いますが、シニア世代になっても働く人が増えたことが転倒災害の増加と重篤化に影響していると言われています。

加齢による運動機能の低下が転倒につながる

 平衡機能の指標である「閉眼片足立ちの時間」を年代別に調査した結果、ピーク時の20歳代90秒程度をピークに年々低下し、60歳代になると20秒前後とピーク時の4分の1未満まで衰えることが分かっています。(個人差はあります。)

 また、危険回避能力の指標である全身敏捷性(ジャンプ・アップ回数)についても、20歳頃の30回程度をピークに年々低下し、60歳時点では15回程度とピーク時の半分まで衰えることが分かっています。(個人差はあります。)

 実際、転倒災害の発生数を年齢別に見た場合、50歳代から急激に増加し、50歳代以上で転倒災害全体の約7割を占めています。(以上、厚生労働ホームページを参照)

転倒災害の3パターン

 転倒災害は大きく分けて3つのパターンがあります。

  • 「滑り」 床が滑りやすい素材だったり、床に水や油が残っていたりすると滑って転倒しやすくなります。
  • 「つまずき」 床に段差があったり、床に凸凹があったり、床に物が置いてあったりするとつまずいて転倒しやすくなります。
  • 「踏み外し」 階段の上り下りをする際に荷物を抱えて足元が見えづらいときに足場を踏み外しやすくなります。

転倒予防にはこの対策

 転倒防止対策として次の6つを実践してみましょう。

<5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底>

 物の保管場所や一時置き場が明確でないと、どうしても床に物を置いてしまいがちですから、物の保管場所や一時置き場を整理し、常に整頓された状態を保つようにしましょう。

 また、床にゴミが散乱していたり、水や油がこぼれたままだと、つまづきや滑りの原因になりますので、清掃・清潔を常に心がけましょう。

 整理・整頓・清掃・清潔をルール化しても、ついついさぼってしまいがちです。ルールが定着するまで(定着してからも)我慢強く指導を続けましょう。

<設備・用具・作業方法の改善>

 転倒の根本原因の解消(床を滑りにくい素材に変更する、床の段差をなくしてバリアフリー化する、物の昇降機を設置する、など)ができれば一番良いですが、費用やタイミングの問題でなかなか対策できないことも多いかと思います。

 そのような場合でも、滑りにくい靴を使う、床に簡易なスロープを設ける、荷物を小分けにして足元が見えるように作業を改善するなど、手軽にできるところから設備・用具・作業方法の改善を行いましょう。

<危険の見える化>

 転倒の危険性がある場所にステッカー等を貼って注意を促すことも転倒防止に効果があります。その際、自然と視線に入る位置に貼ったり、ステッカーの色や大きさを工夫することで、より効果的にすることができます。

 また、職場の危険マップを作成して、転倒の危険性がある場所を情報共有することも効果があるでしょう。(危険マップを作成する場合は、転倒以外の危険情報も共有してみましょう。)

<運動習慣をつける>

 運動習慣の有無で身体の衰えが全く異なってくるのは説明する必要もないところです。職場内で体操する時間を設けてみたり、それが難しい場合は、運動習慣の大切さを事あるごとに伝えるぐらいのことはやってみましょう。

社内教育には職場のあんぜんサイトを活用しましょう

 転倒災害を予防するためには従業員の理解度向上も大切なことです。厚生労働省では職場のあんぜんサイト内にて転倒災害防止に役立つ資料や教材(動画教材もあり)を多数揃えていますので、積極的に活用して下さい。

 また、同サイト内では転倒災害の予防策や好事例についても紹介されています。自社で取り入れることができるものについては、積極的に導入していきましょう。