年末調整の申告書作成で残業は認める必要があるか?

 2021年も残すところ2か月となりました。給与計算の担当者にとっては年末調整でどんどん忙しくなっていく時期ですね。一般的には会社が年末調整の申告書用紙を従業員に配布し、後日それを回収するという流れかと思います。

 ところで、従業員から「所定時間外(極端な場合は自宅に帰ってから)に年末調整の書類を作成しました。」と残業申請が出てきた場合、残業を認めるべきでしょうか。あるいは、残業を認めなくてもよいのでしょうか?

労働時間とは何か

 過去の判例などから労働時間とは「使用者の作業上の指揮監督下にある時間または使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事する時間」とされており、具体的には、業務性、待機性(指揮監督性)、義務性などの要素によって判断されます。

 従って、年末調整の書類作成が労働時間に該当するか否かは、これらの要素を満たしているかの判断をすればよいことになります。

年末調整の書類作成は業務と言えるか?

 給与の支払者(以下、「使用者」とします。)には年末調整の義務が課せられていますので(所得税法第190条)、年末調整の書類を配布しその提出を依頼することは、書類の作成・提出という業務指示を与えているように見えなくもありません。

 しかし、年末調整の書類を使用者を経由して税務署へ提出する義務を負っているのは給与所得者(以下、「従業員」とします。)であり(所得税法第194条~196条)、使用者は、年末調整書類の回収義務を負うわけではありません。(実際、従業員から年末調整の書類提出が無かったために年末調整を行わなかったとしても、使用者は所得税法違反に問われません。)

 つまり、年末調整の書類作成および提出は、従業員が自身の国に対する義務を履行するための私的行為であり、業務には該当しないと言えるでしょう。

 従って、年末調整の書類作成に要する時間は労働時間には当たらないと考えられます。

実務上の取り扱いについて

 以上のとおり、年末調整の書類作成は私的行為であると考えられるため、就業時間中の書類作成は一切認めないという取り扱いも考え得るところです。

 一方で、短時間で書類作成が完了する場合(扶養親族が無く、保険料控除等も全く無いなど)については、就業時間中の書類作成を認めて書類作成に要した時間の賃金控除もしない、という取り扱いも考え得るところです。筆者個人としては、無制限に認めるわけではなく、トイレ休憩やお茶休憩と同程度の5分~10分以内を限度に認めるぐらいが良いのではないかと思います。

 これらは全く正反対の対応ではありますが、どちらが正解というわけではなく、企業文化や労使の関係性、その他諸要素を判断した上で、自社に馴染む取り扱いを選択すればよいでしょう。