労働基準監督官と送検事案について
労働基準監督官はご存じでしょうか?主に労働基準監督署で勤務しており、労働条件の確保・向上や職場の安全・健康の確保を図ることを任務とする厚生労働省の専門職員であり、平成2年3月31日現在で全国に3,013人となっています。
労働基準監督官についてあまり知らない方が多いと思いますので、今回は労働基準監督官の権限や監督業務の流れ、送検事案について解説します。
労働基準監督官の権限
<調査権限>
労働基準監督官(以下、「監督官」とします。)には、事業場・寄宿舎等への立ち入り、帳簿・機械・設備等の検査、関係者への尋問等の権限が与えられています。(労働基準法101条、労働安全衛生法91条など)
監督官の調査は事前に通告がある場合とない場合があります。通告なしに監督官が事業所へきた場合に、監督官を追い返そうとしてしまったという話を聞くことがありますが、そのようなことはしないようにしましょう。
<司法警察権限>
監督官は、労働基準関係法令に違反する罪について、刑事訴訟法に規定する特別司法警察官の職務を行います。(労働基準法102条、労働安全衛生法92条など)
従って、監督官が調査した結果、法違反が認められる場合には送検する権限を有しています。なお、送検後は検察庁に事件が引き継がれ、検察官が起訴することを決定した場合は裁判に移行し、裁判で有罪が確定すれば懲役刑や罰金刑が課されることになります。
監督業務の流れ
監督業務な一般的な流れは下図のとおりです。
図を見ても分かるように、監督官の調査で法違反が認められた場合に必ずしも送検されるわけではありません。むしろ、是正勧告や改善指導等に基づき法違反の状態が解消したことが確認された時点で、一連の監督業務が終了となる場合がほとんどです。
但し、重大または悪質な法違反(死亡事故、労災かくし、強制労働など)があった場合、軽微な法違反であっても是正勧告に従わない場合、あるいは法違反を繰り返すような場合(残業代未払いを繰り返すなど)には送検されることが多くなります。
送検事案の統計
令和元年度の送検事例を違反した法令の種類で分類した場合の送検件数トップ3は次のとおりです。
- 賃金の支払い(労働基準法24条違反)199件
- 設備等(労働安全衛生法20条違反) 149件
- 作業方法(労働安全衛生法21条違反)130件
賃金の支払いに続いて安全衛生関係の違反が2位、3位で続いています。死亡災害や長期間の休業を伴うような重大事故が発生した場合には送検されがちで、統計にも表れています。
次に、直近3年度の送検結果は次のとおりです。
送検に対する起訴率は40%前後(平成21年まで遡ってみてもほぼ変わらず)となっています。また、注目すべきは無罪が3年度で0件となっていることでしょう。いったん起訴されるとほぼ有罪となります。つまり、起訴率はそのまま有罪率と同義であり、送検されると約4割が有罪になることを意味します。