退職代行業者から従業員の退職連絡を受けた場合

退職代行とは?

 退職代行とは退職を希望する労働者に代わって、退職の意思を使用者に伝えるサービスです。

 弁護士や労働組合が退職代行を行う場合は、退職に関する条件面の交渉も行う場合があります。

 民間企業が退職代行を行う場合もありますが、この場合は退職を希望する者の「使者」として退職の意思表示を届けるのみで、交渉を行うことはできません。(郵便局員が単に退職届を届けるだけのイメージです。)

退職代行業者から連絡がきた場合

<退職代行業者の身分確認>

 退職代行を行う者(以下、「退職代行業者」とします。)から労働者の退職に関する連絡を受けた場合、その退職代行業者がどういった者であるのか確認をしておくべきです。なぜならば、弁護士法第72条により、弁護士以外の者は法律の定めるほかに、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止されているためです。(なお、労働組合は労働組合法第6条を根拠に労働条件について交渉可能であり、退職に関する条件面の交渉は可能と解されます。)このように、弁護士・労働組合は代理行為や交渉が可能ですが、民間事業者ではそれらができませんので、まずはこの確認はしておきましょう。弁護士や労働組合ではないのに交渉を行ってきた場合は、その交渉に応じてはいけません。仮に交渉がまとまったとしても、法的効力が生じず無効となります。

<退職意志の確認>

 次に、退職代行業者から届いた退職意思についての連絡が本当に労働者本人の意思が反映されたものであるかの確認が必要です。退職代行業者から労働者本人自筆の退職届が提出されたような場合や退職代行業者への委任状が示された場合であれば、それをもって意思確認が可能ですが、そのような物証が無い場合は慎重に意思確認を行う必要があります。

 退職代行業者からの連絡が労働者本人の意思を反映させたものでなければ法的に無効となり、後々トラブルに巻き込まれるおそれもあります。(例えば暫く会社を休んでいる労働者がいたとして、その家族や知人が労働者に無断で退職代行業者を通じて退職を進めて退職扱いとなり、その後に労働者が出社しようしたときに退職扱いとなっていることを知り、退職無効を争われることになるケースなど。)

 本人と直接連絡を取ることができれば意思確認ができるのですが、退職代行業者を利用している場合は使用者との接触を極力避けていることが多く、そもそも労働者本人と連絡を取ることが難しいと思われます。このような場合は、労働者の家族や知人に連絡を取ったり、あるいは退職代行業者を通じて本人自筆の退職届を改めて提出するよう求めるなどが必要でしょう。

 退職の意思確認がどうしてもできない場合は、退職代行業者から退職の連絡があったこと、退職となる日付、退職の意思が無い場合には使用者に連絡することなどを書面にまとめて、書留や特定記録郵便で労働者の自宅へ郵送する、又は電磁的方法により通知するという対応を取り、少しでもトラブルを予防する努力をしておくべきでしょう。(なお、この方法で完全にトラブルを防ぐことができるわけではありません。)

<使用者側からの交渉について>

 使用者としては、退職時期や業務の引継ぎなど労働者と交渉や打ち合わせを行いたいところですが、労働者本人(またはその代理人となる退職代行業者)がそれらの交渉や打ち合わせを拒否している場合は、退職手続きを粛々と進めざるを得ないでしょう。これは、民法第627条が原則として退職の意思表示があってから2週間の経過によって雇用契約関係が終了することを定めているためです。